3月1日に就職活動が「解禁」され、東大でも本郷キャンパスを中心に、リクルートスーツに身を包んで説明会に向かう学生が散見されるようになった。そんな就活生はもちろん、今後社会に出る学生が考えなくてはならないのは、昨今注目され、もはや社会問題とも言えるであろう「ブラック企業」の問題だ。
そんなブラック企業問題に切り込んだのが、経済学部4年の大熊将八さんだ。
2月23日に彼が講談社から出した『進め!!東大ブラック企業探偵団』は、駒場キャンパスの生協書籍部で2月に最も売れた一般書、本郷キャンパスの生協書籍部では、2月1日から3月2日で最も売れた一般書となった。
大熊さんは、どのような問題意識でこの本を書いたのだろうか。
変化に対応できない会社はブラック企業化する!?
――大熊さんの考えるブラック企業の問題ってどういったものなんでしょうか。
昨今ブラック企業が問題になっていますが、好きでブラックなことをしている会社というのはないと思います。違法な長時間労働やパワハラといったセンセーショナルな事例には、必ずそれが起きる理由があるんです。だから、どうしてそういう企業が出るようになったのかを考えなくてはいけない。
日本の企業の多くがどうして昔のように儲からず、苦しくなっているのか。どこに目をつければブラック企業にならずに済むのか、ということをこの本では書いています。
――ブラック企業そのものについて記述しているのではなく、ブラック企業が出た背景を分析しているんですね。
そうです。ここでは、ホワイト企業というのを3つの基準で定義していて、
1.利益率が高い
2.社員の給料にそれが還元されている
3.連続的にイノベーションを起こして、変化し続けている
この3つを満たすところだけが「ホワイト」だと考えています。
――1と2は分かりやすいですけど、3の変化し続けているというのはどういうことなんでしょうか。
利益率が低く、社員の給料も低いブラック企業というのは、社会の変化に対応できていないことが多いんです。IT化、グローバル化、少子高齢化というのが、ここで言う社会の変化ですが、これに対応して、その変化の波に乗っかっている企業は成功しています。変化できない企業は、この波に乗れず、ブラック企業化しているか、今後そうなる可能性が高い。
たとえば新聞業界であれば、少子高齢化で紙の購読者が減るなか、デジタルに対応し、世界にうって出ている企業は、数年後も高い収益を維持している可能性が高い。そういった、変化し続ける企業は、ブラック企業にはなりにくいと考えています。
――なるほど。ブラック企業について話すときに、イノベーティブかどうかということはあまり考えなかったです。この本を読んで、ラノベ風の軽いタッチの割に、企業分析の内容はすごく濃いと思ったんですが、どうやって調査したんですか?
ここでの分析は、京都大学客員准教授の瀧本哲史さんが顧問を務める「Tゼミ」というサークルで、企業分析や政策分析をした経験が元になっています。
この小説は、僕がNewsPicks(コメント機能が特徴的な経済ニュース共有サイト)でインターンをしていたときに、そこで連載したものを加筆修正してできたものなんです。NewsPicksでの掲載時には、僕が論じた企業で実際に働く人とか、その業界のアナリストの人たちからたくさんのフィードバックをいただいたので、それをもとに再調査をしたりして、データをより分厚いものにしていきました。
「アニメ化・映画化したい」夢や目標を語ること
――こんな分厚い企業分析を軽いラノベ風にしたことで、僕は少し手に取りづらくなったように感じるのですが、どうしてこういう形態にしたんですか?
企業分析という固いテーマをどう幅広く伝えるかを考えて、ライトな形式を選びました。テーマは固くて気軽に手に取りにくいものだけど、できるだけ広く、ブラック企業問題を考えたい人に届けたいと思ったからです。
就活生だけでなく、ブラック企業という社会問題に関心がある人すべてに読んでいただけたらと思っています。
――『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』)風ですよね。
『もしドラ』は意識しました。この本もベストセラーにして、アニメ化や映画化を狙いたいです。『もしドラ』以外にも、小さいころに読んだ『ズッコケ三人組』や、『ハリーポッター』なんかの影響もあると思います。それぞれキャラクターの違う3人組が活躍する話なので。
――アニメ化や映画化を狙う、というのはすごい目標ですね。
学生風情がこんなことを言うのはおこがましいとも思うのですが(笑)この本を書くにあたって出来る限りの調査をして、訴えたいことも明確にしています。
昔は、大きな夢や目標を語ることに恥ずかしさを感じていたのですが、最近は自分に正直になろうと思うようになりました。本当に良い本に仕上がっていると思うので、なんとしても日本中でたくさん読まれてほしいです。
取材を終えて
取材したのが発売当日だったため、本を実際に読んだのは取材後になった。本を読んでみると、ラノベ風のストーリー展開の面白さもさることながら、企業分析・業界分析の内容が非常に濃く、とても勉強になった。自分の目標を臆さずに語る大熊さんの「アニメ化や映画化を狙いたい」という言葉がとても印象に残っている。
(聞き手・文・写真 須田英太郎)
大熊さんの寄稿→ 受験と大学生活は別のゲームであると理解せよ 瀧本哲史さんインタビュー
ブログの転載→ 就活で”真っ向勝負”はするな コネを作るべき