文化

2024年3月11日

ビラが駒場Iキャンパスの歴史を語る ビラ研究会にインタビュー

 

 

 駒場Iキャンパスの教室の机によく置かれているビラ。そのビラを収集する「ビラ研究会」というサークルがある。ビラを見れば、キャンパスで起きた事件や、キャンパスの時代の流れが分かるという。会員4人に活動や研究成果を聞いた。(取材・小原優輝)

 

70年前のビラも所蔵 研究会の活動の歴史

 

──ビラ研究会での活動は

 

 ビラ研究会では、日頃から教室内にまかれるビラを収集・分類し、保管するとともに、集めたビラや歴史的価値のあるビラを駒場祭で展示して、学生や一般の方にビラについて知っていただくという活動をしています。

 

──どのようにビラを収集していますか

 

 最近のビラは、駒場にいる人がまかれたビラから3枚サンプルを取ってきてキャンパスプラザにあるポストに集めておき、ある程度たまったら回収して部室に保管するという形をとっています。また、ビラ詰め封筒も貴重な収集手段です。ビラの他にも学園祭のパンフレットや『恒河沙』(東大内のサークル・時代錯誤社の発行する月刊誌)など、非公式的な出版物はだいたい集めています。

 

 オークションサイトなどを利用して昔のビラや出版物も集めていて、一番古いものでビラは1950年代のものを、『恒河沙』は第3号を所蔵しています。『恒河沙』は今では時代錯誤社社員による記事が中心ですが、昔は駒場の「コミュニティマガジン」と言っていて、寄稿を募って一種の言論空間を形成していました。

 

 東大には昔からビラを面白がって集める人がいるらしく、そのような人たちが保管場所に困り、寄贈先がないかとビラ研に連絡を取ってきたりもしますし、古本屋にたまに売っていたりもします。

 

──ビラ研の設立経緯は

 

 ビラ研ができたのは2011年末です。当時は自治会が全日本学生自治会総連合から脱退しようとしている頃でした。そこでこれからは新しいことをしようと、もっとオープンな自治会にするために情報公開を進めていました。もともと印刷物を集めるのが趣味だった人が、自治会に所蔵されていたビラを情報公開の一環として使おうとしたのがこのサークルができたきっかけの一つです。

 

 そんなわけで、できてから5~6年は「印刷物×政治」のようなテーマで、学生運動や印刷技術に主軸を置いて研究していたのですが、18年ごろからは政治的なことだけでなく学生文化にも注目し始めました。今では印刷技術に興味がある会員が少なくなってしまったのが残念です。

 

──所蔵している中で歴史的価値の高いビラは

 

 たとえば「メインイベント 東大全共闘(全共闘は1968年ごろ無党派学生が形成した学生運動組織)対三島由紀夫」と記されたイベントのビラや、最高裁での判例が有名な私服警察官が劇団ポポロの学内講演に立ち入った1952年の「東大ポポロ事件」の発生を報じるビラ、政治問題を扱う劇団の公演で逮捕者が出た「風の旅団事件」や駒場寮問題のビラなどがあります。

 

東大全共闘対三島由紀夫と書かれたビラ(写真はビラ研究会提供)
東大全共闘対三島由紀夫と書かれたビラ(写真はビラ研究会提供)
東大ポポロ事件を報じる1952年のビラ(写真はビラ研究会提供)
東大ポポロ事件を報じる1952年のビラ(写真はビラ研究会提供)
駒場寮問題についてのビラ(写真はビラ研究会提供)
駒場寮問題についてのビラ(写真はビラ研究会提供)

 

手書きビラに漫画ビラ?ビラの今昔

 

──今昔のビラの違いは

 

 政治系の団体は今でもビラをまいており、ビラを見て学内の政治運動のムーブメントが読み取れますが、宗教系の団体はほぼまかなくなり、SNSで情報発信をするようになりました。

 

 また、例えばコロナ禍前後では、テニスサークルのビラに違いが見られます。20年初頭にいわゆる「東大女子お断りサークル問題」が起きました。一部のテニスサークルが「男子は東大、女子は他大(主に女子大)」と制限を設けて東大女子の参加を断っていることが問題となり、そのような方針のサークルはオリエンテーション委員会が開催する新歓活動に参加できなくなりました。それ以降は、東大女子の参加を断るような記述はなくなりましたし、印刷技術的にも、提携先の女子大の学生が手書きで書いていたのが業者に印刷してもらうビラにほぼ置き換えられました。コロナ禍以降、手書きビラはほぼ絶滅したと言って良いと思います。

 

 サークルに1人でもデザインができて画像編集ソフトを使いこなせる人が入ると、その人がいる間だけビラのクオリティが高くなるなど、ビラは属人的な要素が大きいです。そのような変動がある中で、テニスサークルは代々手書きでビラを書いてきました。それがなくなったのは、一つのビラ文化の喪失と言え、嘆かわしいことです。

 

 また昔は、当時流行していたキャラクターを勝手に使った「漫画ビラ」もありました。本当に手が込んでいて出来が良かったのですが、今では見られません。

 

──ビラ研究の面白さ・意義は

 

 駒場キャンパス内では無数の団体が活動していますが、ビラを集めることは、どのような団体があるのかを手っ取り早く知る上で有効な手段です。また、そのようにしてビラを蓄積することで、昔と今の駒場キャンパスの様子の違いが見えてきます。

 

 大学の歴史を知るうえで、ビラやその他出版物は価値のあるものですが、一般には流通していませんし、東大文書館にも国会図書館にも一部しかなく、こうやって誰かが保存しないと失われてしまうのです。

 

付録 ビラ研究会と東大新聞のビラ

 

──ビラ研究会のビラのこだわりポイントは

 

 いろいろな作品を作りましたが、そのうち一つではわざと「2006年のWord感」を出してみました。今のパワーポイントはデザインを勝手に考えてくれたりもしますが、それよりも前の時代の人がデザインを工夫しようとした感じを演出しています。

 

 別の作品では表面は社会主義思想系団体っぽさを出し、裏面はテニスサークル感を出しました。もちろん、このサークルはそうしたサークルや団体とは関係ありません。

 

ビラ研究会のビラの1つ(表面)。中央のマークはビラの「ビ」の字(画像はビラ研究会提供)
ビラ研究会のビラの1つ(表面)。中央のマークはビラの「ビ」の字(画像はビラ研究会提供)
ビラ研のビラの1つ(裏面)。テニスサークル感を出した(画像はビラ研究会提供)
ビラ研のビラの1つ(裏面)。テニスサークル感を出した(画像はビラ研究会提供)

 

──東京大学新聞の新歓ビラを見た感想は

 

 良い意味でプロ感がないビラは温かみがあって好きです。キャラクターがいるのも良いですね。表面は肝心な情報だけを出した方が良いので、団体紹介などは書かず団体名・キャッチコピー・新歓の情報だけを書いているのも好印象です。新歓のビラとしては洗練されていると思います。ただ、裏面のように箇条書きの中央ぞろえはせず、左にそろえた方が良いと思います。

 

東大新聞の新歓ビラの1つ(表面)
東大新聞の新歓ビラの1つ(表面)
東大新聞の新歓ビラの1つ(裏面)
東大新聞の新歓ビラの1つ(裏面)
若原瞭(わかはら・りょう)さん(文・3年) ビラ研究会会長
若原瞭(わかはら・りょう)さん(文・3年) ビラ研究会会長

 

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