硬式野球部(東京六大学野球)は3月7日、横浜高校とオープン戦を戦い、13-1(七回日没コールド、特別ルール)で敗れた。センバツ優勝校の横浜高校に点差こそつけられたが、垣間見られたのは充実した横浜高校の戦力だけではなく、春のリーグ戦で40年越しの「赤門旋風」が巻き起こる兆しだった。(取材・宇城謙人、高倉仁美、撮影・宇城謙人)
横浜|230 123 2|13
東大|000 010 0|1
東大の先発は松本慎之介(理II・2年)。リーグ戦では昨秋まで全てリリーフで登板してきたが、リーグ戦終了後のフレッシュリーグから先発を経験。昨秋で引退した「東大2季ぶりの勝利投手」鈴木太陽の穴を埋めるべく、先発としての調整を続けてきた。「(國學院久我山高校でセンバツに出場しチームとしてベスト4の成績を残した)高校時代に強いチームと対戦した時は通用しなかったので、再び強いチームと対戦するのは、当時の自分からの成長が見られるようで楽しみでした」。強打で評判の横浜高校にも臆さず、東大球場のマウンドに登った。
一回表の横浜高校の攻撃は1番・阿部葉太からスタート。松本はどんどんストライクゾーンに投げ込んでいく小気味良いピッチングを見せ、あっという間に阿部を追い込む。しかし阿部は4球目を打ち返し、金属バットで放った打球は快音を残して中堅方向にぐんぐん伸びていく。打球はセンター・酒井捷(経・4年)の頭上を越えて、フェンスに直撃。ボールが転々とする間に、阿部は俊足を飛ばし一気に三塁を陥れた。いきなり迎えたピンチをなんとしても切り抜けたい東大。しかし横浜高校打線の次打者は2番・為永皓と、高校球界屈指の強打者が続く。3球目を打ち返した為永の打球は投手・松本へ。しかし、処理を焦ったかバックホームに乱れが出てしまう。結果タイムリーとなり、与えたくなかった先制点が横浜高校に。しかし松本は自分の投球を乱さず、続く横浜高校のクリーンナップを3人で料理してこの回を2失点で切り抜けた。

無得点で迎えた二回表はこれ以上点差を広げられたくないところ。松本は先頭打者こそ1球で抑えるも、強打の横浜高校打線を前に走者をためてしまう。走者一、三塁となったところで、迎えたのは初回先頭打者でいきなり三塁打を放った1番・阿部。絶体絶命のピンチに、スタンドは息をのむ。ワンボールワンストライクとなって迎えた3球目。「勝負に負けたのはあの打席だけです」─松本が試合後に振り返った一球を阿部は見逃さず。いっせんした打球はあっという間にスタンドへ。スリーランホームランとなって、点差は5点に広がってしまった。阿部の圧巻の打球に、ネット裏に詰めかけた報道陣もあっけに取られる。しかしここからが松本の真骨頂の見せどころだった。「東大は直球で押し切れる投手が少ないなかで、秋から打者の内角をつくことや、直球で押し切ることを練習してきました」。その後は左の強打者がずらりと並ぶ横浜高校打線を手玉に取り、三回は0点に抑えてこの日のマウンドを降りた。
2イニングで5点を失った東大。今後の戦いに弾みをつけるため、少しでも追い上げていきたいところだ。だが相手先発は織田翔希。2年生ながらプロからの評価も高い速球派右腕は、なかなか打ち崩せる相手ではない。しかし二回裏、2死から杉浦海大(法・4年)が引っ張った打球は左中間を真っ二つに破り、杉浦は二塁に到達。木製バットというハンデも感じさせず、球場の東大ファンに熱気を呼び込む。7番・荒井慶斗(文III・2年)は敬遠で歩かされ、拡大した好機で打席に立つのはチーム内で激しい遊撃手争いを繰り広げる井之口晃治(文・4年)。冷静に打てる球を見極め、5球目を打った打球はライトへ。走者満塁と好機を拡大する一打は、遊撃手争いの決着を一層分からなくした。チームにとって大きな収穫となったに違いない。

松本の後を受けてマウンドに登ったのは佐伯豪栄(工・3年)。リーグ戦では右の本格派として先発・中継ぎ問わず期待される佐伯はテンポの良いピッチングで攻めていくも、四回、五回と失点を重ねてしまう。迎えた五回裏。9番・秋元諒(文I・2年)、1番・酒井に連打が生まれ、絶好の好機を作ると、打席には2番・堀部康平(法・3年)。初球、2球目、3球目と、大チャンスでプレッシャーがかかる中でも相手投手の精度の高いボールに動じず、しっかりと見極める。その様子にスタンドの鼓動も高まる。迎えた4球目。「ストレートを狙っていました」。しっかりと弾き返した打球は大きく中堅方向に伸び、二塁から秋元が一気に帰還。圧倒的な投球を見せる相手投手を前に、大学生の意地を見せた堀部は「個人的にはホッとしました」。そんな一打でスタンドを沸かせた。1点を返して迎えた六回からは、近藤克哉(法・3年)、江口直希(工・3年)が登板。シーズンに向けて期待のかかる「3年生コンビ」は横浜高校の強打者から連続でアウトを奪うなど要所要所で確かな実力を鮮烈に見せつけたが、やはり苦しいピッチングで失点を重ねてしまう。

七回を終えた時点で13ー1。午後3時に開始した試合はすでに夕刻にさしかかり、東大球場に長い影が差し掛かる。一度は日没コールドが宣告されたが、協議の結果一転、スコアに記載されない「幻の」八回裏の東大の攻撃を実施することに。せっかくの好機に、選手たちは大学生の意地を見せ、少しでも点差を詰めてリーグ戦への弾みにしたいところ。先頭は3番・一塁で先発した工藤雄大(文・4年)。このまま終われない、そんな場面だが相手投手は奥村頼人。横浜高校で織田と双璧をなす高校球界屈指の好投手だ。「飛ばす力はある」と大久保監督の評価も高い工藤は奥村の球をしっかりと捉え、引っ張った打球は左前へ。イニングの先頭打者として、盛り上げを演出する。さらに1死から門田涼平(文・3年)が安打を放ち、走者一、三塁として好機を拡大。ここで打席に立ったのは大山寛人(理I・2年)。昨年はリーグ戦出場がかなわなかった捕手登録の大山、奥村を前に奮闘する東大打線に注目がヒートアップする。大山は奥村の球を見定め、ベンチの注文通り適時打を放った。

試合には大敗。横浜高校打線には長打からエンドラン、小技まで決められ、翻弄(ほんろう)された。副将・酒井は「大学生は違うというところを見せたかった。悔しいです」と語る。しかし、プレーのうまさ、確実性の学びは、「冷静に見ても今日のような強いチームは見たことがない」と酒井が評したほど高い実力の横浜高校と対戦したからこそ得られたもの。好投手相手に奮闘した打線の実力や、投手陣が見せたオフシーズンでのトレーニングの成果に、この試合での学びが加われば、リーグ戦で7年ぶりに2勝を挙げた昨秋からの大きな飛躍が期待できることは間違いない。「赤門旋風」なるか、今春の六大学野球は必見だ。
