秋季リーグで3季ぶりのシーズン3勝、15年ぶりの勝ち点、そして20年ぶりの単独最下位脱出を遂げた硬式野球部(東京六大学野球)。プロ入りした宮台康平投手(法・4年)の復調に加え、チーム本塁打数はリーグ3位の8本、チーム打率も2割4分7厘と戦後最高記録の2割5分3厘(1995年春)に迫るなど打線の奮起が際立った。10戦全敗だった春からここまでの躍進を遂げた要因はどこにあったのか、部員・監督の話から迫る。
(取材・関根隆朗)
春は全敗、主将はけが・・・ 戦前予想そのままに開幕2連敗
浜田一志監督は「開幕時点で、悪くても2勝、うまくいけば6勝はいくつもりだった」と豪語する。東大は8月に他大学とのオープン戦を戦うが、「打線の得点能力はオープン戦では1試合平均1~2点。出てくる投手が決まっているリーグ戦なら4点は狙えると思った」。宮台投手も投げ込みで制球力を高め、「良いときと悪いときの波は激しいけど、3勝3敗くらいかな」と計算していたと話す。
しかし東大の前評判は低かった。春は宮台投手が制球難から大不振に陥り、他の選手にも不調が伝染。チーム防御率は8.58、チーム打率は1割7分8厘と投打共に低迷し、10戦全敗に終わっていた。
「中軸を打つ山田大成選手(育・4年)、楠田創選手(育・4年)、田口耕蔵選手(育・4年)以外の選手が台頭すること」「宮台投手の復調」。この二つが勝ち星には必須と思われた。しかし8月中旬の七大戦では、山田選手が負傷。打線の中軸かつ精神的支柱でもある主将の出場が危ぶまれ、厳しいシーズンになることが予想されていた。
迎えた立教大学との開幕戦。浜田監督は先発に宮台投手ではなく濵﨑貴介投手(理Ⅱ・2年)を起用した。「宮台は試運転が必要と思ってね。『1回戦はリリーフ、2回戦は先発』と本人にも伝えていた」。しかし結果は2連敗だった。2回戦に先発した宮台投手は二回までに6点を奪われ、8回8失点。山田選手が欠場する中で打線もつながりを欠き、2試合でわずか2得点に終わった。
浜田監督は立大戦直後を「内容的にも悪い負け方だったし、ムードは悪かったね」と振り返る。選手からも「春は10戦全敗。開幕も2連敗。『やはり勝てないのか』と悪い雰囲気がチームには漂いました」と当時の沈滞したムードが聞かれた。
先頭打者で扉こじ開ける
悪い流れの中迎えた慶應義塾大学戦。「慶應は投手陣に不安を抱えていた上、第1週に試合のなかった彼らは我々との試合が開幕戦だったので、つけ込む隙はあると思っていた」と語る浜田監督は、この大一番で賭けに出る。先発野手のうち3人を2年生以下の下級生に入れ替えたのだ。中でも1番には、立大戦で代打出場し2戦連続安打をマークした岡俊希選手(文Ⅰ・1年)を起用。「初回に先頭が出るか出ないかが、残りのシーズンの流れを決めると思っていた。岡が一番フルスイングできていたので、そこに賭けました」
結果は吉と出た。初回表、岡選手が11球粘った末に敵失で出塁。すぐさま代走を送り、犠打と犠飛で先制点を奪い取る。監督が「シーズンのターニングポイントを挙げるなら、この試合の初回での岡の出塁」と振り返るほど、重視した先頭打者だった。
他の下級生も結果を残した。2番で初スタメンの辻居新平選手(文Ⅰ・2年)が2安打で1打点、岡選手の代走から1番に入った新堀千隼選手(理Ⅱ・2年)は六回に相手を突き放す自身初本塁打を記録。彼らの働きなしでは、5点は奪えなかった。
浜田監督は彼らの活躍について「3番4番にリーグでも並以上のレベルの楠田・田口がいたからね。相手投手は『中軸の前に走者を出したらマズい』と嫌でも意識する。結果、相手は実力を出せないというわけです」と解説。以降1番に定着した辻居選手は、シーズン打率3割8厘、9得点を記録し、リードオフマンとしてこれ以上ない働きを見せることになる。新堀選手もシーズン2本塁打を記録し、早稲田大学戦から山田選手が復帰した後も二塁手のスタメンを勝ち取った。
先発の宮台投手もこの日は低めに球を集め、9回2失点の快投で完投勝利。後に東北楽天ゴールデンイーグルスに2位指名される岩見雅紀選手(4年)には、タイミングを外す投球を見せ、4打数1安打に抑えた。
続く2回戦、3回戦には敗れて勝ち点は逃すが打線は好調を保ち、3回戦では辻居選手・楠田選手の本塁打などで14年ぶりの2桁得点を記録。山田主将は「チームに言い続けてきた『勝っていても負けていても目の前の一球に魂を込めて戦う』ことを、皆が体現してくれた」と振り返る。慶大からの1勝を契機に、ここ数年でも稀に見る「強打の東大」が猛威を振るい始める。
「七転び八起き」で勝ち点奪取
迎えた法政大学との1回戦。この試合、浜田監督は「相手の投手は緊張していた。ここ数年で東大が勝ち星を挙げた試合の多くは法政が相手。彼らからしたら嫌な相手ということでしょう」と振り返る。実際、相手はこのシーズン5勝を上げる菅野秀哉投手(3年)が先発したが、球は高めに浮き、目に見えて調子が悪かった。
好調の東大打線は、相手の失投を逃さない。三回で菅野投手をノックアウトすると後続投手からも得点を重ね、何と五回までに大量8得点を奪う。「時間をかけて体をつくってきた成果が出た瞬間でした」。大量の援護を受けた宮台投手は安定感のある投球でシーズン二つ目の完投勝利を上げた。
翌日の2回戦も打線は好調を維持。初回、先頭の辻居選手の左前打を口火に、打者9人の猛攻で一挙4点を奪う。「初回の入りが大事という話をしていた中であのような攻撃ができて、チームとして乗っていけました」と山田主将は振り返る。
その後1点差に詰め寄られるが、五回に田口選手の3点本塁打などで再び4点を挙げて突き放す。迎えた六回、浜田監督は救援して好投していた宮本直輝投手(文Ⅰ・2年)を下げ、宮台投手をマウンドに送る。「試合前の段階では『リードしたら2イニング』という話だったんだけど、宮本はあの時点で肩の疲労がたまっていてね・・・・・・。宮台には思い切って六回から投げてもらいました」
浜田監督は試合前のミーティングで選手たちに「七転び八起きだ、絶対に諦めるな」と話していたという。4点リードから1点差まで詰め寄られた四回、1点リードながら2死二、三塁と一打逆転まで追い詰められた最終回。何度も危ない場面はあったが、全員野球で法大を寄り切った。「終わってみると『七転び八起き』の言葉通り、スコアも8-7。何の偶然でしょう(笑)」
「チーム一丸」がチームに勝機呼んだ
シーズンを振り返って、浜田監督は「山田のけがで、逆にチームが一丸になれた」と話す。4年生は元々力のある選手が多かったが、今までは「マイペース」だった代。しかし今季は、選手だけでなくデータ分析班やマネジャーも含めて、上級生を中心に団結できたという。分析班の活躍には、山田主将も言及。「打線爆発の要因は、各人が自分のできること・できないことをしっかり整理し、役割を明確にした上で思い切った打席を送ることができたこと。ではなぜ思い切った打席を送れたかといえば、分析班のサポートがあったからです」
シーズン中も、監督・選手から「チーム一丸」という言葉が多く聞かれた。「開幕2連敗から、チーム全体の一体感というものをより意識してチームを立て直すことができた」(山田主将)。個々の力の結集が、実を結んだ。
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