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2017年2月24日

データで読み解く東大のドラフト候補・宮台の現在地

 2014年、京都大学の田中英祐がロッテにドラフト2位という高順位で指名されて話題となった。しかし、彼がプロの世界で苦しんでいることは皆様がご存知のとおりである。

 そんな彼に、ドラフト前から入団した後まで、そして今でさえもつきまとっているのが「京大卒」の肩書である。私も先程「京大の」と書いてしまったように、これからも彼が「京大」というフィルターを通して見られしまうことは避けがたいだろう。

 2004年に横浜に入団した東大出身の元プロ野球選手である松家卓弘も、あるインタビューで「『東大』の肩書にはたいへん苦しんだ」と語っている。

 最近、東大硬式野球部の3年生、宮台康平について、ドラフトの目玉だという報道が盛んになされている。宮台は東大野球部で既に4勝を上げている150キロ左腕であり、大学野球の日本代表にも選出された。その能力は各球団のスカウトも認めており、「直球が素晴らしい、出処が見づらいフォーム、キレの有る変化球、ハートの強さ、間違いなくドラフト上位候補」とこぞって彼を褒め称えている。だが、田中英祐と言った前例を見てしまった我々は、これに些か懐疑的にならざるをえない。勿論、田中のプロでの成功・失敗の評価はまだ下すことの出来るものではないが、彼に関する報道は「話題先行」であったことは間違いないだろう。

 宮台に関する報道も、そうではないだろうか。

 宮台康平がここまでにどのような成績を残したのかを一度冷静に振り返ってみたい。

 

 投手の指標は代表的なものには勝敗、防御率などがある。しかし、これらは運や味方の守備など投手本人以外の実力に左右される。また、六大学野球は1シーズンで高々15試合前後しかなく、データとして見るにはサンプル数が少ないことも考慮しなくてはならない。

 すなわち、用いる指標は出来るだけ少ないサンプル数でも信頼が置け、投手本人の能力を的確に示すことができているものがふさわしい。

 

 そこで、今回考察に用いる指標は、打者との対戦で三振を取った割合である「K%」と与四球の割合である「BB%」である。比較的少ない対戦打者数でも信用でき、味方の守備や運に左右されないという特長を持つ。K%からBB%を引いた、「K%-BB%」は投手の実力を簡易に見るための指標として用いられる。奪三振と与四球、対戦打者数はデータを手に入れるのも容易で、今回の分析には最適と判断した。これらは、近年では投手の能力を見る上で最も重要な数字だとされており、投手の評価は主にK%、BB%、ゴロ率とフライ率でなされるようになっている。

 データは六大学野球公式ウェブサイトより引用した。ただし、与四球ではなく、死球のデータも混じった「与四死球」しか入手できず、今回のBB%には死球が含まれている。

 図は、六大学リーグで2005年春から2016年秋までの24シーズンに規定投球回を満たしたのべ261人の投手について、縦軸にK%、横軸にBB%を取ったものである。つまり、図の上にある点ほど三振を取る能力が高く、左にある点ほど四死球が少ない投手ということだ。

 

 

 黄色い点は大学から直接ドラフト指名された選手、赤い点は東大の選手、青い点はその他の選手である。そして、宮台は2015年秋を黒、2016年春を緑のひし形で示してある。

 こうすると、やはり突出した成績を残している選手はドラフト指名されているが、プロ入りした選手と、そうでない選手は大部分が重なっている。また、東大の選手は右下寄りにグループを作っている。

 全体的に、プロ入りした選手・東大の選手・どちらでもない選手の3つの集団について優劣がついている部分は、「四死球を出さないこと」よりも奪三振であるようにみえる。各グループの平均値を見てもこの傾向は見られる。

 

各グループの平均値

 

K%

BB%

K%-BB%

ドラフト

21.8%

7.5%

14.3%

ドラフト外・東大以外

17.8%

8.7%

9.1%

東大

8.5%

12.2%

-3.7%

 

宮台の規定投球回到達シーズンの成績

   

K%

BB%

K%-BB%

宮台

2015年秋

19.0%

14.0%

5.0%

宮台

2016年春

20.7%

10.6%

10.1%

 

 その中で、グラフでの宮台の位置は、高さは真ん中で右に外れている。つまり、奪三振の能力では勝負できているが、四死球が多めと言わざるをえない内容だ。

 

 大学野球という環境では、全員が若手であり、突然成長を見せ成績が向上する例もあるだろう。そこで、2シーズン以上の規定投球回到達があった選手について、選手ごとにK%からBB%を引いた数値が最も大きかったシーズンを「キャリアハイ」とし、その成績のみを抽出した。上記の表で示したように、宮台の場合は2016年春の方が数値が大きく、キャリアハイとなる。表は先述の各グループのキャリアハイの平均値である。

 

 

 

K%

BB%

K%-BB%

ドラフト

27.0%

6.5%

20.5%

ドラフト外・東大以外

21.1%

7.5%

13.6%

東大

10.2%

10.2%

-0.1%

 

 これを見ると、ドラフト指名された選手とそれ以外の選手の傾向が先程よりもはっきりと見える。つまり、ドラフト指名された選手は大学でのキャリアのどこかで突出した成績、特に、高い奪三振の能力を示している。宮台の奪三振や四死球の数はそれらと比較すると大きく劣るわけではないが、残念ながら秀でているとは言い難い。プロ入りした選手でこれより悪かったのは1名(楽天・戸村健次)だけである。

 宮台にはまだ一年残っていることを考慮すると、特に他選手とのキャリアハイとの比較は早計かも知れない。しかし、現実に彼は現時点で既にドラフト上位候補と報道されており、こう評されるからには既に卓越した成績を残してしかるべきというのが道理だろう。

 

 こうなるとやはり、頭を過るのは「話題先行」の4文字であり、私の見解では、宮台は「まだ」平凡な六大学のエースである。

 「平凡なエース」という表現は、彼を貶すためのものではない。私も彼は素晴らしい投手だとは思うが、世間の彼への高評価は「東大フィルター」を通した過剰なものであるということだ。

 そもそも規定投球回だけ出場しているという時点で、その投手は十分優秀なのである。中にはドラフトに直接大学から掛からずとも、社会人を経てプロ入りした選手も何人か見受けられる。

 そして宮台はそんな各大学の歴代エースと比べても遜色ない成績を残した、東大史上最高のエースであることに疑う余地はない。

 

 最後に、スカウトの定性的な評価は誤りと言っているわけではない。確かにK%やBB%は比較的少ないサンプル数でもある程度信頼できるが、多いに越したことはないのも事実。実際、今回用いた投手の平均対戦打者数は162.5人で、これが十分かは議論が分かれるところだ。データが不十分なら、ある程度定性的に評価をするのは理にかなっている。「長年選手を見て目が肥え、リーグ戦以外にも彼を追い続けている人たちが皆、何か光るものが彼にあると言っているのだ」という主張も、100%間違っているという訳ではないだろう。それに、スカウトの高評価は素材としてのものということも考えられる。彼らが買うのは現在の宮台ではなく、二年後三年後の姿かもしれない。

 

 昨年秋のシーズン、宮台は怪我に苦しんだ。しかし、彼には後一年残されている。

 この一年で彼が胸の空くような快投を見せ、世間の高評価が正しいと証明してくれることを期待したい。

 

文責:RWBY5期でのNeopolitanの活躍を祈る会会長(猫掌打)(農・4年)

Twitter @so_cute_tiger

 

補足

K%=奪三振÷対戦打者数

BB%=四球(本稿では四死球)÷対戦打者数

 

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