春から大学生活をスタートする新入生は、履修やサークルなど、選択することがたくさんある。特に悩みがちなのがどのように入学後のバイトを決めるか、ではないだろうか。新入生に教育バイトのリアルな実情を知ってもらうべく、家庭教師、集団塾、個別指導、採点のそれぞれを経験したことがある部員で座談会を開催した。(構成・高橋柚帆)
参加者
清水央太郎(経・3年):豊富(かつ特殊? )な教育バイト経験を持つ。
高橋柚帆(理I・2年):本日の座談会の進行担当。大学入学と同時に集団塾バイトを開始。
本田舞花(文III・2年):高3の個別指導で生徒を気にかけ胃を痛めている優しい編集長。
岡拓人(文III・1年):採点バイトから運営チームにステップアップ!
給料、労働時間、やりがい… 気になる各バイトのあれこれ
高橋:早速ですが、みなさんが経験したことのある教育バイトについて教えてください!
清水:俺は、家庭教師と採点と個別指導をやったことがある。家庭教師を始めたのは大学2年の4月で、中2と高2に英語と数学を教えてた。あとは小学4年生の家庭教師も1年くらいやって。小学校の宿題を見てほしいってことだったんだけど、全然宿題をやらない子で、一緒にパソコンゲームをしてた。
高橋・本田・岡:え?!(笑)
清水:宿題をやってからゲームをやろうって声を掛けるようにしてたら、賢い子だったから、俺が行く前に宿題を終わらせたら時間をフルに使ってゲームできると気がついて、俺が行くまでもなく宿題をやるようになって。
高橋:家庭教師の意味がなくなってる(笑)。
岡:僕は、1年の7月から日本史の採点バイトを始めて、今は採点の運営側のスタッフをやってます。どちらもオンラインでできるのが良いところです。採点は丸付けをして間違っているところにコメントを書くのがメインの仕事だけど、運営は他の人が添削した答案の確認や、模試の運営・準備をしたりもします。
本田:私は1年の5月頃に個別指導塾に登録して、実際に生徒を受け持ち始めたのは9月頃。12月までは東大・京大志望の高2と高3の英語を担当し現在は高3のみ担当してる。生徒1人当たり月に2〜4コマくらいで時給は添削より高いけど家庭教師よりは少ないくらい。
高橋:私は大学1年の4月から2年間、集団塾で中1に英語を教えてます。中高生の時に通っていた塾で、東大合格を報告しに行ったその日に講師から声を掛けられて、3月中に面接を受けました。リアルをお届けする企画だけど、給料の方はどこまで言っていいのかな。
清水:赤門ラーメン(本郷・中央食堂の人気メニュー)だと、集団塾は何杯分?
高橋:週に1回、3時間1コマの授業を担当して35杯分くらいですかね(笑)。実際には、採点やプリント作成、保護者への電話対応など授業の準備を全て含めた給料なので、時給換算したら赤門ラーメン3、4杯分くらいかな。まとまった時間働けるけど、コスパを考えるなら別のバイトの方が良いのかも。
清水:小学生の家庭教師をしていた時は、ラーメン 6.8杯分+交通費が出て、豪華なお弁当を用意してくれていたこともあった。他の家庭は3杯分くらいの時給だったり、家庭教師の時給は案件によって変わるかな。
高橋:採点バイトはどう?
岡:採点は出来高制だったので、質を上げようと思うと換算した時給が低くなってしまって。時給制の運営スタッフになりました。
清水:出来高制だと手を抜けば抜くほどもうかっちゃうんだよね。
岡:僕は、好きな日本史の知識を使えて、ある程度楽でやりがいがあるものと考えた時に採点バイトが向いているなと考えたけど、清水さんのようにお金を稼ぎたい人は採点じゃなくて家庭教師の方が向いていると思う。僕が運営スタッフになれたのは、清水さんとは違って採点を真面目にやって評価を上げたからです。
清水:そうそう。俺は運営スタッフ選抜に落ちたから。
岡:テンプレコメントのコピペでは採点の質が落ちてしまうけど、真面目にやりすぎると時給を考えて泣きたくなるんですよね。そこはバランスを考えて、どう生きるかって感じ。
清水:君たちはどう生きるか、ね。採点バイトは俺たちに生き方を問うてくるよね。道徳か、金か。
岡:本当にそう。
高橋:でも採点だと、生徒の顔が見えないですよね。その点集団塾は、毎週アンケートで生徒全員とコミュニケーションをとったり授業前後に生徒とおしゃべりしたりできるので、生徒の人柄もよく分かって楽しいです。
清水:人と向き合うっていう点だと個別も強いんじゃ?
本田:1人に長期間向き合い続ける分関係性が濃くなります。今持っている高3の生徒には、共通テスト期間中は社員を介して毎日応援メッセージを送っていました。
高橋:毎日!
清水:偉い!!
本田:私は集団塾付属の個別指導なので、テキストは全部用意されている状態で。どのテキストを使うか、どんなカリキュラムで進めていくかは生徒と相談しながらやれるから、確認テストを作成してみたり、指導の自由度が高いのが良いところ。その分講師の指導は生徒の成績の変化に直結しやすいから、1、2カ月に一回、講師3〜4人のチームで、どんな生徒を持っていて、現在の指導でどんな悩みがあるかなどの意見交換会があります。
高橋:確認テストの作成は、給料が出ないけど自主的にやっているの?
本田:そうだね。講師側のやる気次第って感じ。一コマ80分なんだけど、テストを挟まないと集中力が持たないし。やりがいという面だと個別も結構良い位置に食い込むんじゃないかな。
高橋:集団塾だと、定められたカリキュラムに則(のっと)って進めるから、そこを自分で考える必要はないけど、個性を出した授業にするのが難しい。清水さんみたいに面白い雑談を挟むのも難しいし… 私じゃなくてもこの授業はやれるんじゃないかって思ってしまうことはあります。
清水:コピペ採点ならぬコピペ授業にならないように頑張らないといけないってことだね。俺は大学1年の時に個別指導をやっていたけど、90分の授業で40分雑談してしまって怒られたことがある。
高橋:やりすぎです(笑)
岡:採点バイトのやりがいとしては、いきなり高3生の答案を採点できるというのがあります。受験が近づくにつれて答案が仕上がってきているな、と実感できます。
清水:それは本当にある。どこかで見た字だなと思ったら浪人している高校の同級生だったことがあったなあ。
高橋:本当に?!
清水:その時はマジで頑張ってほしいという気持ちを込めたコメントを書いた(笑)。
岡:小学校の模試の採点もしたことがあるけど、単調でした。採点するなら、やりがいがあるものを選ぶべきです。
清水:でも小学生の採点とかだと、たまに面白い解答もあって楽しいこともあるよ。
高橋:なるほど、珍解答があるんですね。
バイトの自由度と苦労
高橋:バイトをしている人同士のコミュニケーションはありますか?
岡:出来高制の採点時代はゼロでした。運営スタッフは大学生で構成されていて、ミーティングで多少つながりはできますが、プライベートの付き合いにまでは行きにくい。僕が担当している日本史では、院生主導で作問対策ワークショップがあって、みんなで東大や京大の過去問を解いたりしていました。
本田:私のところは、数ヶ月に1回バイトが全員集まる会があって、ワークショップをします。その後に飲み会を企画してくれる人もいる。集団は授業前に周りの講師と話したりするの?
高橋:講師の席が指定席になっているので、近くの席の人とは結構話すかな。同じ科目を教えている講師同士だと「ここは授業でどうやって教える?」とか話し合ったりします。
清水:職員室みたいになってるんだ。
高橋:あとは先輩に、大学の試験のアドバイスをもらったり。
清水:それはマジで大事だよね。
高橋:授業後にバイト同士で夜ご飯に行ったりすることもありますね。年に1、2回講師全員が集うパーティーもあるので、知り合いは作りやすいかも。でも、私の場合は元々通っていた塾で、講師も高校時代からの友人が多くて、なかなか新しい友達はできていないです。みなさんは他にもバイトはやってますか?
清水:採点バイトは家庭教師やベンチャー企業のインターンと掛け持ちしてた。
高橋:採点は副業にちょうどいいんですね。
清水:ベッドから起きてすぐ始められるから、ちょっとお小遣いを稼ぎたい時に採点はおすすめ。オンラインと対面のバイトを掛け持ちしたら、手軽さと人との関わりの両方が持てていいと思う。
岡:好きなタイミングで好きな時間だけ働けるのが採点バイトのいいところです。最近は毎日1、2時間くらいやっています。約10人で1チームで、自分の忙しさに応じて仕事量を調整できます。
高橋:集団塾は毎週決まった時間に授業をやるから、その点融通は利きづらいですね。代講も申請できるけど手続きが必要だし、何度も申請するのはちょっと気が引けちゃう。先日の大学の試験期間の最中も、授業があったので大変でした。試験を一つ諦めることで事なきを得たんですけど。
本田:リアルな話が出てきたね(笑)
高橋:1対1の指導だと、自分の都合で変更できる?
本田:私の個別は曜日と時間が固定じゃなくて生徒と翌月の指導日を自由に決めるスタイルだから、この期間はちょっと厳しいというのは伝えられるかな。
清水:この週は東大新聞の作業が忙しいってね。
本田:そうは言いませんけどね(笑)
清水:個人で契約してた小学生の家庭教師は、逆に家庭の都合に自分が合わせる感じだった。この日は両親が留守にするので家庭教師をお願いします、みたいな。
高橋:履修決めやサークル決めで忙しい1年の春頃は、バイトは始めない方がいいという話を聞いたりしますよね。大学との勉強の両立で不安はなかったですか?
清水:勉強との両立とは? バイト一本のつもりで頑張ってきたんですけど。
高橋:これから大学生になる方々も読む記事なのに、そんなことは言わないでください(笑)
清水:高橋さんみたいに元々通っていた塾から声が掛かることがなければ、春から始めることってあまりないんじゃない?
本田:家庭教師や個別指導だと、登録しておいて実際に生徒を持ち始めるのは余裕が出てきてからにすることもできるよね。
岡:採点も、答案が増えてくるのは模試がある秋以降なので、それまでは比較的暇がありますね。
高橋:指導以外で苦労することはありますか?
本田:高3の指導は、生徒のメンタルが心配だったり自分の指導が適切か迷ったりして、ずっと胃が痛かった。
清水:優しい…
本田:共通テストも全力を出せたか心配でした。でも、私より生徒さんの方がメンタルが強くて頼もしいです。高3の生徒を持つと自分の指導が生徒の成績に大きく影響してくるから、単なるサポート以上の覚悟が求められてきてやっぱり大変です。集団塾は生徒の母数が多い分、大変じゃない?
高橋:授業態度を注意したり、電話で保護者の方の相談に乗ったりとか、学習指導以外のところも結構大変。
本田:担任の先生みたいな感じなんだね。
高橋:清水さんの場合は特殊な感じですけど、家庭教師はどうですか?
清水:俺のストレスは生徒にスマホゲームで負けることくらいかな。でも、中高一貫校とかで賢い人に囲まれてきた人ほど、東大志望ではないような生徒の指導に当たると最初は苦労するかも。スポーツが得意な子と苦手な子がいるように、勉強にも向き不向きがあるんだなと知れて、教え方に工夫をしなきゃと頑張れるから、良い経験になると思う。一方で、もし成績が上がらないって言われたとしても、そこは自分は仕事ではなくバイトだから…って割り切るのも大事かも。
本田:予備校だとチューターバイトも多いし、大学生主導の指導って実は結構レアだよね。大学生の私の指導で本当にいいのかなって思うこともあるけど、この前まで受験生だったからこそ生徒の間違えやすいポイントが分かったり生徒の気持ちに寄り添えるというメリットもあるわけで。
高橋:でも予備校は、先生1人に対して生徒が何十人いて距離が遠いよね。大学の授業みたいな感じがする。
本田:どの形の教育バイトが良いかは、生徒にも講師にも相性があるよね。
自分に合ったバイトの選び方とは?
高橋:最後に、それぞれどんな人に向いているバイトか、イチオシポイントを教えてください!
清水:家庭教師はとにかく自由度が高い。指導においてもそうだし、給料の支払いも手渡しのこともあればキャッシュレスのこともある。キャッシュレス化を進めたい方はぜひ!
岡:教育バイトを選ぶ時は、まず最初に自分が教えている姿を想像するのが大事だと思います。相手のことを深く理解して、レベルに応じた教え方を目指すのか、自分の知識を最大限に発揮して、一歩引いた立場から正確に誤りを指摘することに力点を置くのか。後者の自分は採点を選びました。
本田:個別指導は集団塾と家庭教師の中間のようなところがあって、どんな教育バイトに向いているかを見極められるから、初めてやる教育バイトにおすすめです。やってみて、1人の生徒じゃ物足りないと思えば集団に行けばいいし、もっと自由度の高い指導がしたいと思えば家庭教師をやればいいと思う。
高橋:集団塾は生徒みんなの成績を上げることに燃えるガッツのある方におすすめです。自分の指導クラスの成績が上がった時に達成感が得られます。あと、同じ授業をやっても生徒によって反応が違ったり理解度が違ったりするのはすごく興味深い。最初はがむしゃらに進行するだけになってしまいがちだけど、慣れてくると授業の中にいろいろな工夫を入れていけるようになって、やりがいが大きい。ただ、指導以外でやらなければいけないことも多いから、コスパ良くお金を稼ぎたいという目的なら他のバイトが良いかな。