学術ニュース

2020年6月5日

アビガンの基本骨格 従来より高効率に合成

 小林修教授(東大大学院理学系研究科)らは5月20日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として注目されるファビピラビル(商品名アビガン)の基本骨格「3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド」の高効率な合成法を開発したことを発表した。すぐにも現行の製造法に適用できると考えられ、現在東大から特許を出願中。

 

 ファビピラビルは、元々新型インフルエンザの抗ウイルス薬として開発されたが、COVID-19に対する効果が報告され、治療薬の候補として注目されている。現在は治験を進めて効果を実証するためにも、増産体制の整備が進んでいる。一方、ファビピラビルの基本骨格である3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドを既存の方法で合成すると廃棄物が生じることが問題となっていた。廃棄物は基本骨格の生産量100キログラムにつき約130キログラム生じ、環境汚染を引き起こす可能性があり処理に手間と費用がかかるため、製品のコストを引き上げている。

 

 小林教授らは、3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミドの縮合反応に有効に機能する新触媒を開発した。反応は水中で行われ、新触媒は水中でも分解せずに安定して効率良く働き、目的の生成物を取り出すことができる。この方法は廃棄物をほぼゼロにできる上、反応終了後に生成物を取り出せばほぼ純粋な水のみが残る、クリーンで効率的な製造法となることが示された。

 

 今回の改良法の他、小林教授らはファビピラビル合成原料の製造工程の改良などにも着手している。1回ごとに合成を行う現行のバッチ法より効率の良い、連続的に生成物を取り出すことができる連続フロー製造法の開発にも取り組み、製造工程そのものの効率化も目指す。


この記事は2020年6月2日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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