ローラント・ルッツ・クノール(Knorr Lutz Roland)特任助教(東大大学院医学系研究科=研究当時)らは、細胞内の物質を分解するしくみであるオートファジーにより、溶液中で高分子が凝縮した構造である液滴が切り取られる仕組みを明らかにした。精神変質疾患などの発症メカニズムの解明が進むことが期待される。成果は1月20日(英国時間)の英科学誌『ネイチャー』(電子版)に掲載された。
オートファジーでは分解する物質をオートファゴソーム膜が包み込むことが必要。オートファジーにより分解されるタンパク質が液滴を構成する場合があることは分かっていたが、その普遍的な仕組みは明らかになっていなかった。
液滴は膜に触れると、固体に接触した液体が固体表面に広がる「ウェッティング効果」と表面張力によって、膜を変形させる場合がある。クノール特任助教をグループリーダーとするドイツ、日本、イギリス、ノルウェーなどの国際共同研究チームは、ウェッティング効果に着目。オートファジーにより分解されるタンパク質の一つであり、細胞内で液滴を形成し得るp62を観察すると、オートファゴソーム膜によって、p62の液滴の全体が覆われる場合と一部が覆われる場合があることが明らかになった。
オートファゴソーム膜が覆うのが、全体であるか一部かであるかは、膜の面積と液滴の表面張力によることが数理モデルにより予測された。さらに、試験管内で模擬的にオートファゴソーム膜と液滴を構成することで、オートファゴソーム膜の変形には液滴の相互作用が関わっていることが実証された。以上のことから、オートファゴソーム膜が曲がるときに生じるエネルギーに加えて、液胞とオートファゴソーム膜の間のウェッティング効果が関与していることが明らかになった。
ウェッティング効果には、液滴とオートファゴソーム膜上にあるタンパク質の相互作用が必要であることも判明した。研究チームは、オートファジーにより液滴が分解されることを「フリューイドファジー(fluidophagy)」と命名した。
オートファジーは老化や神経変質疾患などに関連し、p62は筋萎縮性側索硬化症(ALS)などとの関連が示唆されている。今回の発見は、こうした疾患の予防法や治療法の基礎となることが期待されている。
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