イベント

2019年4月13日

「あそびの未来ファクトリー」を情報学環で開催 みんなで創るあそびの未来

 2月27日から3月13日にかけ、本郷キャンパス情報学環オープンスタジオで「あそびの未来ファクトリー」が開催された。これは、これまでにない遊びを考え、実際に作ってみようというイベントだ。参加者たちには単に新しい遊びを作るだけでなく、議論を通じて新しいアイデアを生み出す力や他の参加者と協力して作業を進める力を養うことが期待された。

 

 参加した東大生たちはグループごとに必死にアイデアを出し合い、短い期間ながら思い思いの遊びを形にした。その中で学生達は遊びを作るだけでなく「遊びとは何か」という問いにも挑んでいたのだ。

(取材・撮影 麻生季邦)

 

 

 主に講義と制作、発表によって構成されていた今回のイベント。初日のガイダンスで「遊び」に関する講義と自己紹介があり、ガイダンスから1週間後の中間発表会で遊びの概形を発表、さらに、1週間後の最終発表会で遊びの詳細を披露という日程だ。各発表会までの期間はグループごとに制作に注力した。

 

そもそも「あそび」とは?(ミニ講義)

 集まった参加者たちには、遊びとして思い付く限りのものを書き出す課題が出された。この作業を通じて、参加者は「そもそも遊びとは何なのか」という問いを抱いただろう。

 

 課題が一段落すると、遊びについて研究している会田大也特任助教(情報学環)が、ロジェ・カイヨワの『遊びと人間』や、ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』などの古典的な遊び研究を例に挙げて、参加者に遊びの在り方を説明した。

 

 カイヨワによると、遊びとは六つの要素で成り立っている。それぞれを分かりやすく解釈すると「強制されない(自由)」「空間と時間が確保されている(隔離されている)」「どうなるか分からない、遊ぶ人の振る舞いで結果が変わる(未確定)」「財産や富とは無関係(非生産的)」「その場だけのルールが成り立っている(規則がある)」「日常の生活の外側にある、特殊な意識(虚構)」となる。

 

 カイヨワのほか、ホイジンガの説明なども参考にしながら、会田特任助教は主に身体的な遊びと知能的な遊びの二つの軸を提案した。さらに、身体として「重力との戯れ」「速度の変化」「遠隔操作」を挙げ、知能として「まねる」「判断する」「創作する」を挙げて、遊び作りの切り口を与えた。

 

 参加者たちは会田特任助教の話から遊び作りのヒントを得て、いよいよ実際の制作に突入。プログラミング言語などのスキルや遊びに求める要素を考慮してグループ分けがなされた。参加者たちはグループごとに公園やスタジオに集まり、専門のスタッフからの指導を受けながら自主的に遊び作りにいそしんだ。

 

 制作段階では、春も近づく陽気な日曜の昼下がりに代々木公園に出向き、小さな子どもたちの視線にさらされながら、遊びで使う、地面に書いた円の周りをぐるぐると回るグループもあった。またあるグループは、発表での実演が伝わりやすいように段ボールに大きくイラストを切り貼りするなど、グループごとに独特の工夫が見られた。

 

中間発表会

 中間発表会では、主催者の苗村健教授(情報学環)を始め、マーベラスや博報堂、ソニー・インタラクティブエンタテインメントといった企業の社員を迎えた審査が行われた。

 

 中でも、子どもの片付けを楽しく演出する仕掛け「きれいきれい」と、自分だけの新生物を育てて調理する空想的なアプリ「SweEatMe」は審査員の反響が目立った。

 

 「きれいきれい」は、おもちゃ箱に付随して、片付けで入れられたものの重さを検知し、画面上のゲームの得点に反映させる装置。「幼い子どもが自ら片付けをしたくなる、飽きない仕掛け」がコンセプトだ。審査員は「実際たくさん子どもがいる場所で、子どもたちがどう反応するか試したい」と期待感も込めてコメントした。

 

 「SweEatMe」は、フードプリンターという空想の技術を想定。アプリ内で、育成要素を選び自分だけの未知の生物を育てる。最後にフードプリンターから、3Dプリンターのように実物を生成し、食べる。これには審査員から「遊びに盛り込む要素を欲張りすぎ。本当に入れたいものだけに厳選するべき」と厳しいコメントが付いた。

 

 審査員たちは最終発表に向け、それぞれの遊びが社会や日常の中でどう存在するか、具体的な構想を期待したようだった。

 

発表会では参加者の笑顔が絶えなかった

 

最終発表会

 最終日も、中間発表会と同様審査員を迎え、最優秀賞一つと優秀賞二つが選ばれた。各グループ10分の持ち時間の中、動画や模型で自らの遊びを披露した。

 

メンバーの掛け合いで内容を説明する「MeetMe」のグループ

 

 「きれいきれい」は「Tidy Toy」に改名。おもちゃを魚、おもちゃ箱を水槽に見立て、子どもたちに「集めたい」と思ってもらうため、より感情に訴える進化を遂げた。一方で制作の中で議論に上がっていた箱の移動手段については、箱をルンバに接続して、移動しながら自主的な片付けを促す仕組みに落ち着いた。

 

 「SweEatMe」は「MeetMe」に改名し、アプリ内のアバターの主を探すほとんど全く違う遊びに。このアプリでは、事前に自分に関するいくつかの質問に回答。回答に応じて「MeMic」という名前の自分のアバターが作成される。同時に、同じ質問への回答から、自分と相性が良いと診断された相手のMeMicが表示される。アバター作成時に開かれた質問をさまざまな参加者に繰り返す中で、表示された相手MeMicの主を探すゲームだ。質問に関するやりとりが、自然と見知らぬ他人との対面での会話を盛り上げる仕掛けとなっている。

 

 もちろんプログラミングなどの技術を持っていると、作品を高度にする可能性が上がり、選択肢の幅が広がる。今回最優秀賞を受賞した「Tidy Toy」も、片付けの動機となる画面上の反応を上手く演出できていた。日常でただの手間である片付けを楽しく解決するという制作の意義をアピールしたことも印象的だった。

 

 とはいえ今回のイベントで試されたのは、技術力だけではなかった。審査員を巻き込む実演や、アプリ内で表示するブロックを段ボールで代用して実演したグループがそれぞれ優秀賞を受賞したことからも、そのことがうかがえる。

 

アプリ「つめつめ」の実演でピースをはめる参加者

 

 イベントの改善点としては、参加者任せでグループ分けが行われた点がある。グループをけん引する存在がいなかったために、迷走したまま終了を迎えたグループもあった。今後どの参加者も一定に開発の可能性を持てるよう、グループの質の平準化を図る必要がありそうだ。2回目以降の開催にも期待したい。

 

参加者の声

 

◇「ワクワクロック」を作ったグループの1人

 「ワクワクロック」は、アナログ時計の盤面とトランプを組み合わせた遊び。針の動きや、どの数字の上に針があるかなどをルールに盛り込んだ。グループの一員だった学生に話を聞いた。

 

「ワクワクロック」で遊ぶ参加者

 

──イベントに参加したきっかけや、動機は何ですか?

 参加のきっかけは同じ学科の人の紹介。元々遊びが好きでトランプや人狼、その他いろいろな遊びをしてきたので参加しようと思った。

 

──イベントを通して、得られて良かったと思われるものは何ですか? また、今後のご自身の進路や研究にどのような点で生かせそうでしょうか?

 僕たちの班が苦労したのは「アイデアの原石を光らせること」。僕が思い付いた時計を遊びにするというアイデアは個人的にはすごい良かったと思うが、具体的なゲームがぽんぽん思い付くわけではないので1週間頭を悩ませた。アイデア出しの過程でアドバイザーからアイデアを出すコツを教わったので将来生かしていけたらなと思った。またチームワークに関しても非常に大きな経験を得たと思っている。皆で同じ方向に進むことが大変だということがよく分かった。

 

──中間発表で審査員から受けたアドバイスを含め、最終発表で特に気を付けたところはどこですか?

 中間発表で僕たちの班の作品はあまり魅力的でないと思われてしまったようだったので、リアクションをつけて楽しそうにしている映像を使ってアピールしようと思った。

 

──自分のグループ以外で、個人的に面白いと思われたグループはどこですか? また、どういう点で面白かったでしょうか?

 「つめつめ」は詰めるという行為が遊びの一つであることに着目していったことと、実際にダンボールを使い部屋の壁に貼って皆が遊べるように置いておいたことがよかったと思う。

 

──本イベントの良いところ、友人に勧めたい点は何ですか?

 学習面では、遊びの概念の再認識ができ、アイデア出しのコツなどを学ぶことができた。

 その他には、遊びに囲まれているので他の人の遊びなども体験したりと楽しい体験ができた。またハッカソンの性質上素晴らしいスキルを持った人(参加者やアドバイザーなど)と巡り会えるのも良いと思う。

 

◇最優秀賞に輝いた「Tidy Toy」を作ったグループの山下優樹さん(理Ⅰ・2年=取材時)

 

「Tidy Toy」で遊ぶ参加者

 

──イベントに参加したきっかけや、動機は何ですか?

 審査員の苗村先生の授業で紹介されて、面白い人と知り合えたらいいなと思って参加した。

 

──イベントを通して、得られて良かったと思われるものは何ですか? また、今後のご自身の進路や研究にどのような点で生かせそうでしょうか?

 エンジニアとして便利なものを作りたいと考えていたが、遊びのような人間の直感に働きかけるものを作るのも面白いと気付いた。合理性に凝り固まることなく、遊び心のあるエンジニアになりたい。

 

──中間発表で審査員から受けたアドバイスを含め、最終発表で特に気を付けたところはどこですか?

 ユーザーを未就学児にしたので、幼稚園の実態や子どもの捉え方を考慮した。

 

──自分のグループ以外で、個人的に面白いと思われたグループはどこですか? また、どういう点で面白かったでしょうか?

 かわいいファクトリーさんのMeetMeが面白いと思った。なぞなぞ感覚で遊びながら自然と会話が生まれ、相手のことを知ることができるように良く工夫されていた。

 

──本イベントの良いところ、友人に勧めたい点は何ですか?

 学生にとって、製品開発する上で経済的制約、チームメイト探し、活動場所の不足が大きな障壁となるが、これらを企画が支援することで参加者は自由に活動できた。アドバイザーやスタッフが参加者のアイデアを尊重しながらより良いものにしようと全力で援助してくれた。


この記事は、2019年4月9日号に掲載した記事の拡大版です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

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