学術

2017年12月6日

【著者に聞く】21世紀のアニメーションがわかる本 アニメは「私たち」の時代へ

『21世紀のアニメーションがわかる本』

土居伸彰著、フィルムアート社、税込み1944円

 

 昨年は『君の名は。』を筆頭に日本でアニメーション映画が盛り上がりを見せた年だった。本書によれば、この映画は21世紀のアニメを理解する上で象徴的な作品であるという。アニメが現代的にどう変化しているのか、鋭い分析を行った本書は新しい「アニメーション入門書」だ。

土居伸彰さん(ニューディアー代表)

 著者の土居伸彰さんは、東大大学院での博士論文を書籍化した『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』の応用編として、本書を構想した。21世紀にフォーカスを当て「世界全体のアニメの見取り図を示すことで、日本と海外に分断されがちな見方を変えたかった」。

 

 本書の前半では、2000年代以降のデジタル化による、世界のアニメ制作の状況変化が説明されている。デジタル化はアニメの「伝統」を強化する一方、グラフィック・ノベルやドキュメンタリーとの融合など「部外者」の参入を招いた。これらは、「伝統」が重視する「生命感あふれる運動の創造」としてのアニメとは別の原理を作り出す。

 

 アニメは20世紀、「私」の物語を描いてきた、というのが土居さんのもう一つの主張だ。反現実的である強い意志や思想を持った「私」が世界と対峙する過程で、観客に対し「他者」や「空想」の物語を追体験させるという。

 

 しかし、10年代に入って、「私」から「私たち」という変化があることに気付いたと語る。これが本書の後半で書かれる内容だ。「個性的な存在であることをやめて匿名化し、世界の在り方にただそのまま身を委ねるだけの作品が増えました。『私たち』の時代には、現状肯定的な性格があります」と土居さんは話す。「『君の名は。』が象徴的で、監督の新海誠は現状を否定しない。初めて思想のないアニメ作家が出てきた感じがしました。現実が厳しい中で、それでも自分自身の人生を肯定してくれる何かに身を委ねたい人々の要望に応えるかのようでした」。作り手本位ではなく、作品の受け手本位。それもまた、「私たち」の時代のアニメの特徴なのだ。

 

 その上で土居さんは、現状肯定のその先を見据える。湯浅政明監督の作品に顕著なように、「『私』からの解放により、自分があらゆる別の存在であるかもしれないという可能性を示唆してくれる」ことも、「私たち」の時代特有のものだと語る。「それは、世界が変わっていく中で重要な視点なのではないか」

 21世紀の今、明確な基準が消えてさまざまなアニメーションの存在が許容されている。だからこそ、本書全体を通しても「いろんな可能性がある時代であることを伝えたかった」という。そのような意味では「東大の前期教養課程はとても良いところで、自分の興味とかけ離れた授業を取るべき。それが積極的に自分を『私たち』にしていくメソッドではないでしょうか」。

「著者に聞く」では、本の著者に取材して執筆の背景や著作に込めた思いを掘り下げます。


この記事は、2017年11月7日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。

 

 

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