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2024年3月23日

【後編】建築の外をめざして ASIBA代表二瓶雄太さんインタビュー

 

 東大大学院の二瓶雄太さん(工学系研究科・修士1年)を中心にした関東圏の大学の建築学科生有志が、2023年に建築学生のアイデアの社会実装をサポートするプログラムを開催した。その名も「ASIBA」。妄想で終わりがちな建築学生の提案を、妄想で終わらせず社会で試すことを目指すプログラムだ。ゼネコンや設計事務所、デベロッパーなど建築・都市領域の企業と連携しており、資金提供を受けて実際に形になりつつあるアイデアもある。後編では第1期のプログラムを振り返りつつ、24年4月から始まる第2期や将来のビジョンについて話を聞いた。(取材・安部道裕)

 

*記事末尾に第2期プログラムに応募するためのリンクを記載しています。

 

【前編はこちら】

【前編】建築に新たなムーブメントを生む「足場」に ASIBA代表二瓶雄太さんインタビュー

 

 

大企業の共感誘った「人材の奪い合い→共に育てる」

 

──大手ゼネコンや設計事務所など名だたる企業が協力していますが、どういう経緯で協力企業を集めたのでしょうか

 

 それにはまずASIBAの理念から話しましょう。ASIBAは「建築・都市領域の未来を担う学生は、その領域全体で育てるべきだ」と考えています。学生を育てるのは大学などの教育機関であるという考え方が一般的だと思いますが、大学には建築分野での社会実装を目指すプログラムはありません。アントレプレナー的な建築学生を育てる担い手がいないのです。その現状の中で「だったら私たちが」ということで、ASIBAを始めました。

 

 しかし学生の私たちは、運営はできても、お金も技術も場所もありません。受け皿としてASIBAは機能しますが、教育の担い手になるために必要なリソースは、建築・都市領域に関わる全員で一部分ずつ負担していくべきだと考えています。

 

 

 人材という観点では、従来は企業間での「パイの奪い合い」でした。しかし、入社して一つの会社に生涯勤め上げることが少なくなる時代では、企業間で「パイを奪い合う」より肩を組んで「パイを大きくする」ことを目指さなければなりません。そのためのプラットフォームにASIBAはなり得ると思っています。

 

 こういった思いを企業にぶつけ、協力を得ています。特に清水建設さん、日建設計さんなどはこの思いに共感していただき、実績もなかった第1期から支えてくれています。

 

──2023年のスタジオで印象深い出来事について教えてください

 

 宮田龍弥さん(工・4年)のプロジェクトが印象に残っています。「空調設備が大好きです!」と言っていた彼が「社会が求めていることと自分が好きなこととの接点」に気付いたタイミングがありました。宮田さんが研究していた「AIによる設備の不具合検知・診断」が社会の求めている既存オフィスのスマート化という考えと結び付いた時です。そこから「建築の自律化」、建築が自律的に自らの不具合を検知し、診断して、直すという世界観が生まれた瞬間は、記憶に残っていますね。

 

1期生である宮田さんによるプロジェクト『Withvac』。AIを用いた設備管理のアプリケーションだ(画像は二瓶さん提供)

 

──反省点はありましたか

 

 期間が足りなかったことなど、いろいろとありましたが、最大の反省点は最終目標をプレゼンにしたことです。

 

 最後の講評会では、企業やゲストを相手に全チームがプレゼンをしました。そのクオリティは非常に高く、それ自体は喜ばしいことですが、結局そのプレゼンで終わってしまいました。「私たちが批判したかった建築学科の設計製図の授業と何も変わっていないのではないか……」という反省がありましたね。本当にやるべきだったのは、何を作って、何人に届けて、どういう反応があったか、という結果を追求することでした。

 

第1期プログラムの最終カンファレンス(講評会)では、建築家など4人によるトークセッションも行われた(写真は二瓶さん提供)

ビジョンは、ASIBAがなくなること?

 

──4月から始まる第2期に向けて、まずはASIBAのステートメント(目標)について尋ねさせてください。「建築系学生にとっての新たな選択肢となることを目指す」とありますが、新たな選択肢とは、具体的にどういうことでしょうか

 

 自由な進路選択ということです。現状では、建築学科を卒業した人の進路はゼネコン、設計事務所、不動産、広告と不思議なほど似通っています。その原因は「みんながそうだから」という同調圧力があるから。

 

 ASIBAをきっかけに少し違う道を選ぶ人が増えて、それを見た人がまた違う道を歩む、という流れをつくり出せれば、この同調的な雰囲気が消えると思います。自由な選択をするのが当たり前というカルチャーが建築学科に根付くことを目指しています。

 

──24年のプログラムについて教えてください。
 

 23年の2カ月間のプログラムでは、少し社会寄りの提案をプレゼンするという、既存の建築学科での授業とさほど変わらないものになってしまいました。そのため24年4月から始まる第2期では期間を伸ばし、プログラム内容も変えて、仮説検証をみっちりと行うようにします。24年の後半では、個々のプロジェクトを着実に続けて、伸ばしていくという流れにしたいと考えています。

 
 ワークショップやフィールドワークなど、さまざまなイベントも開催する予定です。東大の産学協創推進本部とも今後協働して、より多く学生と企業との接点を生み出していこうと考えています。

 

同じような考えを持つ人館のコミュニティとしてのASIBAも強化していく(写真は二瓶さん提供)

 

──プログラムの内容はどのように変えるのですか

 

 第1期では、毎週専門家の方を招いて、それぞれのプロジェクトに対して意見をもらっていました。これは建築教育では伝統的な方法で、いわゆるエスキスと呼ばれるものですが、これがASIBAにとっては最適ではなかった。エスキスは言うなれば「エライ人の感想」ですが、この「エライ人の感想」だけでは、妄想を現実に落とし込んだときに生まれる価値や齟齬(そご)が見えてこないと考えています。

 

 答えは社会の中にある、だから社会に投げかけないといけないということに気付き、第2期では実践に重きを置いています。とは言いつつも、やはり有識者は必要ですから、各チームにメンターを設ける方式にしようと思っています。

 

──どんな人に参加してほしいと思いますか

 

 外に飛び出したいけれど、飛び出す機会がない人、やりたいことがあるけれど足踏みしている人に参加してほしいです。場所も、チャンスも、仲間も、飛び出すための「足場」は全部あります。

 

──24年1月には一般社団法人格を取得しています。今後の展望について聞かせてください

 

 23年の最終講評会で、審査員の方々から言われた「続けなさい。続けていった先でしか、社会は変わらないよ」という言葉通り、続けていこうと思います。

 

 ASIBAを続けた先に、最終的に私たちが目指しているのは「ASIBAが消えること」です。つまり大学の教育制度の中にも組み込まれ、いつの間にか社会実装までを試す姿勢が建築学生にとって当たり前になるのが良い未来だと考えています。そのためには、裾野を広げて多くの人を巻き込めるように拡大していきます。

 

【第2期プログラム開催概要】

期間:2024年4月13日(土)〜2024年7月6日(土)
募集人数:20名程度
参加費:無料
場所:都内
応募締切:2024年3月31日(日) 24時

詳細は以下のページへ
「ASIBAインキュベーション・プログラム第2期 募集ページ」
https://note.com/asiba_studio/n/n59511abce9a5

 

【事前説明会】

 本プログラムに関心のある方向けに、オンラインにて事前説明会を実施します。応募にあたって説明会の参加は必須ではありません。

日時:2024年3月28日(木)午前9-10時
説明会参加フォーム:https://forms.gle/k8XxJfUQC4J8Ri847

 

サムネイルの写真撮影:二瓶航

 

【記事修正】2024年3月23日午後1時51分 大見出し末尾の【後編】の削除、【前編】のリンクの挿入、記事末尾にサムネイルの撮影者の追加をいたしました。

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