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2020年7月4日

【法人化15年 東大の足元は今】①教育(上) 教員負担の削減とTAの活用を

 大学の機能の中枢を占める教育だが、東大の教育への評価は必ずしも高くない。THE世界大学ランキング日本版2019では、所属学生や高校教員からの教育への期待の実現度を示す教育充実度で東大は国内11位。世界版では教育分野13位(国内首位)を獲得したのと対照的な結果となった。何が問題とされたのか。本記事では前期教養課程に焦点を当て、現在の在り方を検証するとともに将来の教育水準向上の方途を模索する。

(取材・原田怜於)

 

図はTHE世界ランキング世界版・日本版公式ウェブサイトより東京大学新聞社が作成

 

 「教員と学生の交流やグループワークの不足が結果に反映されているのではないか」。そう話すのは、教育効果の調査が専門の椿本弥生特任准教授(教育学部付属教養教育高度化機構)だ。例えば大人数での一方通行(講義)型授業では学生は質問しづらく、心理的な距離から授業外での教員との交流も生まれにくい。

 

 「少人数の双方向型授業が学生の学習意欲・教育効果を高めることは研究で明らか。しかしその拡大は小さな駒場キャンパスの教室数や教員の確保の面で困難な部分が多い」と椿本特任准教授。授業法のセミナーなどを開催しても、教員の参加率は高くない。教育の充実には教員の忙しさが障害となることに気付いた。

 

 教員の負担となるのが、多岐にわたる事務作業だ。日本の大学では、海外の一流大学では事務が受け持つ仕事が教員に割り当てられることが多い。電子化も進まず「紙の書類が多くの部署を行ったり来たり」。松木則夫理事・副学長(教育担当)も「五神真総長の改革で、各教員の出席が必要な委員会の数が減少し、かなり改善されたが、いまだ教員が行わなければならない業務は多い」と認める。

 

 一方、学生にも学習に十分な時間を割けない事情がある。Aさん(文Ⅲ・1年)は「困難な経済状況にある学生が、生活費を稼ぐため働く時間を取られている」と話す。加えて、学生の学習意欲も課題だ。「やる気があまり出ない。大学受験を『東大に受かりたい』という目標でやっていた人は、入学後には勉強自体の目的を見出しづらい」

 

 双方向性を確保する試みの一つが、大学院生のティーチング・アシスタント(TA)の活用だ。海外の一流大学ではTAがグループ討論の進行や小論文執筆の指導を担うことも一般的だが、日本のTAはこれまで、プリント印刷や授業の補助など、授業の本質と無関係な業務をこなすことが大半。卒業生調査でも、「TAが役に立った」と答えた学生は49%と教員に対する評価より格段に低い。(図2)

 

教育運営委員会実施の2018年度大学教育の達成度調査を基に東京大学新聞社が作成

 

 しかし東大でも、TAの授業内での積極的な活用を促す取り組みが進む。2017年には高度TAであるティーチング・フェロー(TF)が新設され、授業の一部をTFに担当させることまで可能になった。一方で安易なTAの導入は、必ずしも教員の負担軽減とはならない場合もある。教員が経験の少ないTAに仕事を任せる前にはトレーニングや準備作業と結果の確認が必要となり、かえって教員の負担となる場合もある。また、双方向性の低い大人数の授業では、TAの活躍の場が確保されているとはいえない。

 

 椿本特任准教授は、全授業にTAを組み込む初年次ゼミナールのTA研修を開発・実施している(理科のみ担当)。「TAに事務作業だけさせるのはもったいない。思い切って任せてみることも重要ではないか」と前向きだ。「将来教員になる人が多い東大の大学院生にとっては教授法のトレーニングにもなる。彼らの成長なくして将来的な教育水準の向上はあり得ない」

 

 今の東大では、教育効果の可視化も十分に行われていない。椿本特任准教授は「教育の効果や問題を詳しく調べるため、アンケート調査の質の向上が急務だ」と指摘する。「記名調査で複数のアンケート結果、履修科目、成績などを対応させれば、学生や教員を支援するためのより効果的な方策を考えられる」。卒業生調査をはじめ現在行われている調査も、方法や分析次第でさらなる活用の余地があるという。=後編に続く

 東大を大きく変えた、国立大学法人化からはや15年。本連載では、東大の現在地を足元から描き出し、東大が抱える課題とその解決策を探っていく(この記事は昨年紙面で好評を博した連載の転載です)。

 

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この記事は2019年11月19日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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