インタビュー

2016年12月2日

2020年の教育変革後の新しい王道を創る~東大卒起業家のイマ

 今、教育業界は、2020年の大学試験改革を見据えたダイナミックな変革期にある。現行のセンター試験に替わり記述式を含む新テストが導入され、高校1年生から継続的に「高等学校基礎学力テスト(仮称)」を受ける制度になることが検討されている。

 さまざまある変化のポイントは「知識・技能」だけでなく、答えが一つに定まらない問題について自ら解を見いだしていく「思考力・表現力・判断力」と、主体性を持って多様な人々と協働して「学ぶ意欲・姿勢」を育成・評価する教育に変わるということと言われている。

 学習塾「a.school」は、いち早くこういった教育の変化を見据えて、新しい学び方を提唱している。

 

 前編では、創業者であり、東大卒でもある岩田拓真さんより話を聞き、a.schoolで行われている探究・創造型授業の姿に迫る。

 

 東大本郷キャンパスから徒歩1分少々。

 通学の際に、いつも横目で見て気になっていた、赤い看板。このビルの6階に、a.schoolはある。

 

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 入室すると、そこは間仕切り一枚ない、吹き抜けの空間があった。部屋の4分の1ほど進むと靴を脱いで上がるようになり、ここから「教室」らしい。取材に訪れた夕方の時間帯は小学生低学年のクラスがあり、子供達が楽しそうに駆け回っていた。

 

――すごく自由な雰囲気ですね。

 子供達はアクティブに動きますね。遊び場みたいな(笑)。小学生だろうと、なぜ?を突き詰める授業をするのですが、考えが行き詰まると立ち上がって素振りをする子とかもいます(笑)。素振りが終わって戻ってくるとアイディアが出てくるみたいです。バレエを習っている子もいて、体を動かしてから戻ってきて発言したりしますね。

 

fig2

 

原始人に「数学」とは何か説明せよ

――最初に授業内容について伺いたいです。知識・解法の習得にとどまらず、その知識の背景を「なぜ?」と追及したり、知識を活用したりする力を養う「探究学習」ですが、具体的にはどのような内容になっているのでしょうか?

 

 例えば数学の授業では、僕はまずこう言う問題を中学生に出してます。

 

「原始人に「数学」とは何か説明せよ」

 

 意外と難しいでしょう。どうですか?

 

――うーんと(しばらく悩む)・・・

正解はないですよ。

 

――「生活を便利にするもの」とか、どうでしょうか。

 いいですね。このように、毎日受けている「数学」って何なんだ、と改めて考えてもらうことです。中学生で面白かったのが、「0から10の数字を使うだけで、君たちのチキンを平等に分けられるぞ」というもの。原始人がチキンを持った絵つきで(笑)。

 こうやって改めて「数学とは何か」と考えさせた後、僕から「マテーマタ」という「学ぶべきこと」を意味する数学の語源について話をします。この「マテーマタ」は4つの科目に分かれていたのですが、それはなんだろうね、と再び問いかけます。生徒の中には、「考えるには肉体が必要だから」ということで「体育」と答える子もいるんですが(笑)、答えは「算術」「幾何」のほかに、「音楽」と「天文学」が含まれていることがポイントです。「数学」が「計算」だけとは限らないということです。学校では、算数・数学の時間に計算は必須ですが、有名な数学者の中には計算が苦手な人もたくさんいるんですね。英語のmathematicsも、辞書だとstudy of numbers, quantities, or shapes.つまり「計算」は必須ではないんですね。「計算」が「数学」に必須でないとすると、「何学」と言い換えられるだろう? 理科につながることが大事だから「理数学」、文明の基礎になってるから「文明学」などが生徒から出てきた例です。

 このように「数学」そのものについて理解を深める仕掛けをしています。

 あと、「もし今数学がなかったら」何が困るんだろうと問いかけると、「木の家ばっかりになる」。複雑な構造計算とかできないから。

 他にも、「単位がなかったら」というお題を出したり。身の回りの単位について書き出してもらい、メートルやリットルがなかったらどうするか、というアイディアを考えてもらいます。このディスカッション自体が創造性を問われますし、これを通して「単位って便利だし、学ぶ意味があるんだな」と生徒たちが感じ、数学(算数)を学ぶ動機を育む狙いがあります。

 

fig3

 

――「探究」の意味が少し掴めてきました。他にも特徴はありますか。

 アウトプットが多いのが特徴です。探究して、創造して、表現して伝えるというサイクルを回しています。総合型の「探究ラボ」クラスでは学期ごとにテーマがあり、直近の「街の探究」では、「本郷の街はなぜ和菓子屋が多いのか」を取り上げた子がいました。実際に和菓子を食べに行って、お店の人にインタビューをして、お店のルーツや歴史を調べています。

 他にも、和菓子職人への取材から職人という仕事に刺激を受けた子による「なぜ職人は仕事愛があるのに、サラリーマンは楽しくなさそうなのか」や、また「服屋の接客がうっとうしい」「ユニクロではあまり話しかけられない」と感じた子による「人の接客とコンピュータの接客の仕方」という探究テーマもありました。ウェブの服屋とリアルの服屋の比較をして、どういう接客のシステムがありうるのか考えていました。

 

――まさに探究的ですね。自分で「こうしたらいいと思う」と提案しているのが印象的です。

 この一つの完成型(アウトプット)として、「カードゲーム」の作成があります。子どもたちが学習したことを持って、実際の社会に届けて欲しいという願いから始まりました。調べたことをクラウドファウンディングによってカードゲームに製品化して、世の中に届けるのです。

 「職人トレジャー」は、和菓子職人が究極のどら焼き作りの旅に出る話。素材を集めるゲームになっています。先ほどお話しした、職人愛について調べた子の作品です。

 また、文京区で東大生が取り組んでいる、老人と学生が一緒に住むというプロジェクトに感動して、「老人」をテーマにしたカードゲームを作った子もいます。その名も「老人集め様」。老人をたくさん集めたら勝ちというゲームになっています(笑)。

 

――チャレンジングな取り組みですね。そんなa.schoolには、どのような子が通塾しているのですか。

 色々な子がいるのですが、一つ特徴的なのは「勉強が面白くない」「他の塾がイマイチ」と感じた子たちです。そういう子たちでも、一回来てくれればすぐ変わります。まず「楽しい!」という声があがります。「問題集を解きたくなった」など、学びへの楽しさに目覚めます。

 客層としては、中学生狙いで開校したのですが、小学生の問い合わせが意外と多いんですね。従来型の学習塾に限界を感じていらっしゃる保護者の方からの問い合わせを受けます。

 

――従来型の「学力」を伸ばすわけではないので、保護者の理解を得るのが大変なのではないでしょうか。

 保護者の方には、お子さん自身の学びへの姿勢ができ上がれば、知識は絶対に乗っかってくると話しています。ですが、こちらが説得するというより、最初からそういう感覚がある方がいらっしゃっているような気がします。僕たちとしては、学ぶということが面白くなることが一番で、学力の前に「主体性」を養いたい。そうすれば勝手に従来型の学力も伸びます。そうなるには時間がかかるのですが、それまで待てるという保護者の方が多いですね。

 

――生徒にはどのような語りをしているのですか。

 三つのことを伝えています。一つ目は「なぜ・ワクワクを大切にしよう」自分が面白いと思ったことが大切。つまらなかったらやらなくていいから、自分が面白いと思ったことを突き詰めてみよう。

 二つ目は「答えは色々ある」。答えに悩んでも、「わからない」じゃなくて、 止まらずに手を動かして、試行錯誤し続ける。

 三つ目は「人と違う考えを組み合わせよう」意見の違いがあることは悪いことではない。異なる他人の考えを組み合わせて新しいアイディアを出せるような、意見の違いを楽しめるようになってほしいですね。

 このことは大学生のメンターにも伝えていて、子どもたちに対して「こう考えたらどう?」と、思考に揺さぶりをかけるような導きをしてもらっています。a.schoolのこのようなコンセプトは、小学生も含め子どもたちもよく理解しています。

 

――今、教育業界では「アクティブ・ラーニング」が盛んに言われています。a.schoolも同様の流れに位置付くと思うのですが、「アクティブ・ラーニング」についてはどう考えていますか、

 冷静に見ているところはありますね。正直、今は玉石混交だと思います。手を挙げたらアクティブ・ラーニングかというと、そうではないですしね。ただ、アクティブ・ラーニングの実践例として見られていることは理解しているので、新しい教育の形を作っていきたいと思っています。

 

起業家としての岩田さんの横顔に迫る後編に続く。

学習塾”a.school”代表岩田さんに聞く、「東大生よ、自分の道を歩めているか」

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