海洋研究開発機構の小野純特任研究員、東大大気海洋研究所の渡部雅浩教授らは、温室効果ガスの排出量が減少しても北極では温度上昇が抑制されにくい可能性があることをシミュレーションを通じて明らかにした。研究成果は2月25日(日本時間)に英国のオンライン科学ジャーナル『Communications Earth & Environment』に掲載された。
北極圏とその周辺地域(北極域)は地球の中で最も地球温暖化の影響を顕著に受けるといわれている。これまでの観測データから、北極域では地球全体の平均の約4倍の速さで地球温暖化が進行していることが分かっており、この現象は北極温暖化増幅と呼ばれている。要因として海氷面積の影響などが議論されている一方、温室効果ガスの排出量の多寡によって北極温暖化増幅がどう変化するかはこれまで検討されていなかった。
小野特任研究員らは、温室効果ガスの排出量が将来的に増加する場合(高排出シナリオ)と減少する場合(低排出シナリオ)について2100年までのシミュレーションを実施。北極および地球全体の温度上昇量は低排出シナリオの方が小さい一方、地球全体の温度上昇量に対する北極の温度上昇量の割合(北極温暖化増幅インデックス)は低排出シナリオの方が大きいことが分かった。これは、温室効果ガスの排出量が減少した場合、温度上昇そのものは抑制されるが、北極域では地球全体ほどは抑制されない可能性があるということを示している。
シミュレーションでは、2040年代に二つのシナリオ間で北極温暖化増幅インデックスに差が生じた。高排出シナリオで2040年代に晩夏の海氷の消失が見られるなど海氷面積に大きな変化があることから、北極温暖化増幅の要因として海氷面積に関係があるという議論を補強する結果となった。
北極温暖化増幅が気候変動を引き起こす可能性があることから、この研究は気候変動対策を考慮する上で重要な知見となる。今後は、温室効果ガス以外の人為起源ガスが北極温暖化増幅に与える影響などを研究する。