東大では、法学部など一部の学部や学科を除いて、卒業論文(卒論)の執筆が卒業の必須要件として課せられている。一方、工学部建築学科では、卒論に加えて卒業制作(卒制)と呼ばれる、最終制作課題も必修課目となっている。建築学科における卒制の制度的な概要や歴史について有識者に聞くとともに、卒制を終えた学生へのインタビューを行い、その実態に迫った。
(取材・大西健太郎)
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定石にとらわれない手法を提案
『住み継ぎ』という作品で19年度の辰野賞を受賞した西田静さん(工・4年)に、作品のテーマや構想プロセス、卒制期間中の苦労や思い出などについて聞いた。
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作品について教えてください
福島県奥会津地域にある実際の限界集落を敷地に設定しました。住みながら家財を整理し、集落の住民や集落を訪れる人に対して家を開いていくことで、家主が亡くなった後も空き家として放置されることなく、次の住み手に受け継がれる「住み継ぎ」という考え方を提案しました。
敷地の選定理由について教えてください
制約が多いほど設計がはかどるタイプなので、地形が複雑な場所を選びました。地方再生の手法としては、地場産業の振興を絡めることが定石です。しかし、今回はあえて産業のない集落を選びました。それは、産業に頼らなくても集落を維持できる方法を考えれば、産業のない他の地域にも適用できると思ったからです。
卒制で苦労したことは何でしょうか
テーマが「住み継ぎ」に決まるまでに時間がかかりました。その後もテーマを建築の形に練り上げていくのに苦労しました。結局、最終的な形が決まったのは提出の1週間前でした。
設計に並行してヘルパーに模型作りを手伝ってもらったのですが、その指示や工程管理も大変でしたね。
卒制で学んだことについて教えてください
私は意匠系の研究室に所属しているのですが、卒制期間中は研究室の先生のみならず、計画、環境、構法、歴史といったさまざまな分野の先生に相談しました。その中で、各分野の専門的な知見が、今まで思っていたよりも設計に反映できることに気付けました。
辰野賞受賞の感想と今後の展望を教えてください
受賞したこと自体もそうですが、受賞に付随して学外講評会への推薦をもらえたことがうれしかったです。卒制で設計の楽しさを再確認することができたので、大学院進学後も研究室のプロジェクトに励みたいと思います。
この記事は2020年3月31日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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