東大アメリカンフットボール部(関東学生1部上位リーグTOP8)は11月9日、アミノバイタルフィールドで桜美林大学とリーグ戦第7節を戦い、14―6で勝利した。東大がキックオフ直後に先制しながらもその後は桜美林に自陣奥深くまで攻め込まれる場面もあるなど緊張感のある展開となったが、第4クオーター(Q)に追加点を奪って突き放した。今季最終戦での勝利で第4節明治大学戦からの連勝数は4に伸び、TOP8昇格後初めてのシーズン勝ち越しとなった。(取材・新内智之、五十嵐崇人、高倉仁美)
東大 |7007|14
桜美林|3003|6
延長戦を劇的に制した慶應義塾大学戦から2週間、迎えた今季最終戦。甲子園ボウルは惜しくも逃したものの試合に臨む集中力はみじんも劣らない。守備から攻撃への連携はこの試合も健在だった。先攻は桜美林大学、キックオフ直後のディフェンスで難なく相手に攻撃権の更新を諦めさせると、パントもカットし陣地回復も許さず。エンドゾーンまで12ヤードの地点からこの試合最初の攻撃。いきなりの好機に風間瑛介(工・4年)が群らがる選手たちを押しのけ飛び込んでタッチダウン(TD)を奪うなど7点を先制し、幸先の良いスタートを切った。
前節の中央大学戦で初勝利を挙げた桜美林も食い下がる。パス主体の攻撃パターンを展開し東大ディフェンスの弱点を突いてきた。エンドゾーンまで20ヤード付近まで迫る場面も複数あったが、東大は慌てない。パスは通されても受け手の前進は阻止。手数を掛けさせ反則を誘うねばり強いディフェンスで、失点はフィールドゴール(FG)による3点のみ。こんなときこそオフェンスが援護点をプレゼントしたいところだったが、攻撃権を更新する場面はあるものの決定機は作れず。こう着状態は第3Qまで続いた。
最終Q、明暗を分けたのはギャンブルプレイだった。山場はいきなり冒頭から。陣地回復のためのパントが定石の場面で攻撃権更新を狙う東大。これが奏功し、光吉 駿之介(農・4年)が30ヤード以上の長駆を披露しエンドゾーンまで3ヤードに迫ると、続く攻撃で山川遼(経・4年)がTDを決めるなど再び7点を奪い、突き放した。逆転には2度のTDが必要になった桜美林は時に40ヤードを超えようかという超ロングパスを試みるなどなりふり構わない必死の攻撃を見せるも、パスに適応した東大ディフェンスをこじ開けられない。試合時間も2分を切る中で、追い詰められた桜美林もギャンブルプレイに打って出た。しかしこれは東大ディフェンス・大島健音(文・4年)によるクオーターバック(QB)サックにより失敗。その後、東大は攻撃権を更新し試合終了の瞬間を迎えた。
今試合で4年生は引退。花々しい勝利を掲げ、有終の美を飾った。
森清之ヘッドコーチのコメント
今日の試合はミスなどもあるが、それでも学生たちが頑張って、しんどい状況や思うようにいかない場面でも崩れず、なんとか粘って、最終的に勝ちに持っていけた。そういうところは学生たちの成長したところだし、シーズンを通じて良かった点だと思う。
(相手はパスを多用してきたが、)そのパスにもいくつか相手の特徴があったので、試合中に適応はした。パスを決められてゴール前まで迫られたが、終わってみて、結果6点しか取られていないし、ディフェンスはよく粘ってくれた。ウチらしいというか、本当はもっともっと力量を上げて完封できるくらい、パスも今回の半分くらいしか決めさせないほどの力をつけられたらいいのだけれど。残念ながらまだそこまで成長はしていなくて、その点は課題として残っている。ただ今持っている力で粘り強く守ることはちゃんとできていた。それは本当によくやったと思う。
(終盤でQBサックを決めた)大島は4年生で、ウチの中では非常に身体能力の高い選手。一番大事なところでいいプレーをしてくれた。彼だったらもっともっと活躍してもおかしくないくらいの力があったし、それが一番いいところで出てとても良かった。
TOP8の他のチームは、桜美林もそうなのだが、スポーツ推薦で入ってきたりとか、野球で甲子園行ったことがあるとか、サッカーで全国大会に出たことがあるとか、そんな選手ばかり。東大生は頭がいいから、「運動も本格的にやってない、大学に入ってから始めた自分が本当に勝てるんだろうか」とロジックの積み重ねで考えてしまう。強くなった将来の自分が見る景色は違うのに、変わる前の今の自分を基準に考えてしまって、そうなると勝てる理由はほとんどない。頭がいいところが一番のストロングポイントだが、それが逆にウィークポイントでもある。そこをいかに破れるか、いい意味で馬鹿になれるかというところが大事。どうしてできるの、と聞かれた時に、こうだからできる、とロジカルに答えられなきゃだめ、みたいな、そういう世界で(東大生は)訓練されてきた。そうじゃなくて、理屈を超えたところで無邪気に、自分たちもできると信じられたらいいのだけれど。馬鹿になることが、ウチにとっては一番ハードルが高い。
実際に勝つことで、勝ちが少しリアルになった。人間は「できる」と思うと具体的な努力ができるようになる。100Mを5秒で走れと言われても、そのためにハードなトレーニングをしろと言われても、走れると思っていないから誰もそんなことはできない。マラソンを1時間で走れと言われても、そのために自分の能力を上げる厳しいトレーニングはできない。でも「できそう」と思えれば、そのために頑張る力はみんなある。僕らにとっては大きな壁だったが、それが少しずつ、いけるんちゃうか、と思えるようになってきた。1回でも甲子園ボウルに行けるとまた世界が変わって見えるんだろうけど、(これからは)なんとかそこに向けて頑張っていきたい。
この勝利は誰に助けてもらったわけでもなく、学生たちが自分でつかみ取った勝利なので、そこは胸を張っていいと思う。(選手たちには)1年間お疲れ様でした、という気持ちだし、すごくよくやったと思う。また少ししたら来年のチームが始まる。先輩たちがここまで到達したので、もう一つ上に行けるように、頑張らないといけないなというところ。
小城陽人主将(文・4年)のコメント
今日は自分にとっても最後の試合だったが、チーム全体でやりたいことはできた。オフェンスもディフェンスもキックも、しっかり練習したことがそのまま出せた。4年生が最後を飾るにふさわしい結果だったと思う。
今年のディフェンスの課題はパスディフェンスでもあった。そこを突かれるのはあらかじめわかっていたので、対策はしてきた。ただ相手のミスでドライブが切れたりした場面もあったので、自分たちの実力でドライブを切れるようになるといい。
今年の4年生は、2年生だった時から試合に出ていたメンバーも含め、それ以外のメンバーも、3年生、4年生になるにつれ(チームの一員であるという)自覚が出てきた。全員でアメフトをやるということができていた。幹部だけが積極的というようなチームではなく、4年生全員が自信を持って、自覚を持ってやれていた。そういう意味で、今年の4年生は最高のチームメイトだったと思う。