東大アメリカンフットボール部(関東学生1部上位リーグTOP8)は10月27日、アミノバイタルフィールドで慶應義塾大学とリーグ戦第6節を戦い、24―27で勝利した。東大がリードしながらも追いつかれる一進一退の攻防で延長戦にまでもつれたが、最後まで集中力を切らさず勝ち切った。プレーオフ進出が見えてくる14点差以上の勝利とはならなかったが、劇的な勝利で今季リーグ戦3勝目を挙げた。(取材・新内智之、五十嵐崇人、赤津郁海、高倉仁美)
慶應|006810|24
東大|077013|27
リーグ戦開幕直後は苦しい試合が続いたが見事にチームを立て直し、明治大学戦、中央大学戦に連勝して迎えたこの試合。14点差以上を付けて勝利すればプレーオフ進出が大きく近づき、「日本一」の目標が見えてくる。キックオフを前に、観客席には小雨交じりの肌寒さを忘れさせるほどの熱気が渦巻いていた。
「一喜一憂せずに目の前の1プレーにちゃんと集中して」森清之ヘッドコーチが求めた大一番こそ冷静な試合運びをチーム全体で体現していった。まずはディフェンスが、慶應オフェンス陣のパスを絡めた攻撃を鋭いタックルで食い止める。自陣20ヤード以内へ侵入を許すピンチでも慌てない。
粘り強く無失点に抑える奮闘がオフェンスにも流れを呼び込んだ。第2クオーター(Q)後半、慶應のパントをQB・田中昂(文Ⅰ・2年)がキャッチするとそのまま一気にエンドゾーンから11ヤードの地点まで侵入。願ってもないチャンスでしっかりタッチダウン(TD)とトライフォーポイント(TFP)を決めて計7点を先制、優位に試合を進められるかと思われた。しかし相手は昨季ダブルスコアで敗北した慶應、簡単には勝たせてくれない。第3Q中盤にはハーフライン付近からのパスで一気にディフェンス陣が抜き去られTDを許す。その後両チームとも1つずつTDを奪って同点となり第4Qの終盤を迎えた。
東大はわずかながら自陣に入り込まれた状態でのディフェンス。じりじりと相手に押し込まれる展開に、ペナルティも絡み自陣エンドゾーンまで残り5ヤード。試合時間は1分を切り、攻守交代してTDを取り返す時間はない。ここでTDを奪われリードを許せば敗北が大きく近づいてしまう。東大にとってこの試合最大のピンチだったが、LB・江原康平(育・4年)が相手オフェンスからボールをはたき落とすと、DB・藤本鉄大(文・3年)がそのボールを確保しターンオーバー。起死回生のプレーで第4Qを同点で終え、延長戦に持ち込んだ。
止んでいた小雨が降りしきり気づけば霧雨の中、先攻・後攻に分かれて戦う延長戦。先攻の東大は、地道にランをつないでファーストダウンを更新する持ち味を生かした攻撃で、最後はRB・中村樹(医・4年)がTD。TFPも決まり後攻の慶應にプレッシャーをかける。ディフェンスもファーストダウンでの慶應の前進を1ヤードにとどめ、セカンドダウンでもパスを通さない。追い詰められた慶應は戦況を一挙に打開しようともくろみエンドゾーン目掛けたロングパス。これを相手WRがスーパーキャッチ。TFPも決められ試合は振出しに戻ってしまう。
延長2回は慶應の攻撃から。一転してランで活路を見出そうとする慶應に対して集中力の高い守りで迎え撃ち前進を許さない。ファーストダウン更新を諦めさせフィールドゴール(FG)による3失点に抑え、攻撃へ。
ここでも自分たちの形をいかんなく発揮しファーストダウンを2度更新、エンドゾーンまで3ヤードに迫る。緊迫の瞬間、東大の攻撃開始。後がない慶應の強烈なタックルにも怯まず、最後はRB・山川遼(経・4年)が飛び込む。一瞬の沈黙、誰もが審判のジェスチャーに注目すると、審判の両手は高く掲げられた。TDが決まった瞬間、フィールド上も応援席も一体となって歓喜に踊った。いつの間にか霧雨も止み、東大の戦士たちは手に汗握る戦いを勝ち切った。
劇的な勝利もプレーオフ出場は厳しくなった。「今年のチームなら甲子園ボウルに行って日本一になる未来は見えていた」キャプテン・小城陽人(文・4年)の言葉には悔しさがにじむ。それでも、3連敗から立て直し勝利を重ねた今年の戦いは、来年以降も大きなヒントになるに違いない。それに、この試合で見せた状況にかかわらず目の前の一戦に持てる力を余すことなく発揮する姿勢は、同様に日本一を掲げた歴代キャプテンが目指した理想にも重なる。次の試合は、11月9日の桜美林大学戦。今シーズン最終戦だ。有終の「散り際」であり悲願への礎となる一戦で、どんな姿が見られるだろうか。
森清之ヘッドコーチのコメント
実力から考えると、勝てるチャンスのない試合はない。かといって相手も非常に強いし普通にやれば勝てる楽な試合というのもない。
とにかく今日言っていたのは、(今日)まず14点差以上つけて勝つのをクリアして、次の試合も勝てば日本選手権に行けたわけだが、とりあえずは展開がどうなるかわからない。あまりそこは考えずに、最後選手権を狙える状況だったらしっかり14点というのを意識してやろう、それまでは意識するな。それよりも展開に関わらず、一喜一憂せずに目の前の1プレーにちゃんと集中してやろうということ。それは選手たちがよくやってくれたと思う。ゲームプランが良かったとかそういうことではなくて、選手たちがみんな頑張って良い練習をしてきた成果が出た非常に良い試合だった。
追いつかれてから動きが変わることもなかった。点差や残り時間など状況によってやらないといけないことは変わってくるが、追いつかれたからヤバいとかリードしているから安心だということは全くなく、とにかく次のプレーに集中してやるべきことをちゃんとやっていく。多分選手たちも(そのことが分かっていたからこそ、)同点に追いつかれてもタイブレークになっても、第4Qの最後にあそこまで攻め込まれても、浮ついたり気持ちが切れたりとか逆に気負いすぎたりとかがなく、練習通りいつも通りやっていた。それが立派だったと思う。
(負けが続いた)最初の3試合というのは、特にオフェンスのファンブルなどでボールを失ってしまうことが多かった。そこについてのみ、とにかく早急に何とかしないといけないということで、具体的にはボールセキュリティといってボールの持ち方をしっかり丁寧に基本通りやるとかそういうところはかなり言ったけれど、それ以外のところは特に変わったことはない。たまたま明治大学戦で自分たちがファンブルしてというのがなくて、試合は結果的に勝てた。そこが一番大きかった。勝ったことで、口先だけで「勝つぞ」とか「勝てるぞ」とか言うのではなくて、リアルに勝ちをイメージして準備して練習して試合をやるというのができるようになった。(それまでは)本当に自分の本心でリアルにイメージして勝てるというのがないまま、景気よく「勝つぞ」とか「日本一だ」というのを口で言っているばかりだった。
練習を見ていて、勝てる力を充分に付けているというのは夏くらいから思っていたので、そこのメンタルというかイメージが変わったら化けるかなとは思っていたけれど、その通りになった。やはり、運に味方されつつも明大戦で勝てたのがすごく大きなポイント。中央大学戦にも勝てて「勝てる」というのが確信に変わったのではないか。もちろん勝てると言っても簡単に勝てるとは思っていないけれど、やることをやったら十分自分たちは勝てるんだというのをリアルに思いながら準備できるようになった。具体的にプレーがどうのこうのとかではない。わかりやすい変化だとファンブルしなくなったということが大きいが、実際に試合に勝つことによってチーム全員が、試合に出ている選手も出ていない選手もスタッフも学年関係なく、「行けるぞ」と思って日々の準備をできるようになった。
(連携面も)練習ではある程度できていたが、試合になるとタイミングが狂ったり余計なことを考えたり、気負ったり弱気になったりとかで練習でやっていることと変わってしまっていた。それが(今は)全部いい方に(転じている)。急に連携が良くなったわけではなくて、練習通りできるようになったということ。勝つことによって自然体でできるようになった。今までやってきたことは間違っていなかったし、自分たちの力をちゃんと発揮すれば十分自分たちにもチャンスがあると思えていることが大きい。
今日勝ったが、残念ながら日本選手権には行けない。ただ、次はこのチーム最後の試合。一番良い試合をして終われるようにしっかり今までと同じように準備して勝てるように頑張りたい。
小城陽人主将(文・4年)のコメント
ここ2週間、各ポジションで自分たちの課題、特に相手の慶應義塾大学のディフェンス、オフェンス、キッキングチームに対していろいろな想定をして、さまざまな準備を怠らずにできたのかなと。全体的に基本はスカウト通りにオフェンスもディフェンスもキックも進められた。運がいい部分も結構あったんですけれども、それを引き込めた一因には、自分たちで最後まであきらめずにボールキャリアを追いかけたり、最後までオフェンスが自分たちのキャリアを押し込んだりとか、最後までフィニッシュし続けたところもあると思う。
(第4Q終盤のピンチについて、)「一瞬必勝」という今年のスローガンを口に出しながら、この一本一本この一瞬、後々のプレーやこれまでのことは関係なく目の前のプレーをやり切るぞという風に声掛けしながら皆で守って行けた。やるしかない、止めないと負ける状況というのはみんなわかっていた。
オフェンスはボールセキュリティ、(つまり)ファンブルやターンオーバーのところ、ディフェンスはパシュート、最後までキャリアを追い続けるというところは怠らずにやろうと言っていた。その部分が開幕直後3連敗した時にはできていなかった。そういうところを徹底したことで、直近3試合ではチャンスが転がってきたのだと思う。
連携面でも大きなコミュニケーションミスもなかった。一つ目のTDではディフェンスが(相手オフェンスを)奥に押し込み、パントリターンで2年生の田中が良いフィールドポジションに持って行った。オフェンスが毎シリーズTDを取れるわけではないので、ディフェンスやキックで流れを持ってこれたのは大きかった。
(3連敗の後の)4試合目で、ここで負けると甲子園ボウルには行けないのは決まっていたので意地の見せ所だ、何も失うものはないから全身全霊でやるしかないと。けれど、基本的に何かを変えたというよりは、どこまでやるかというところで選手たちが自覚を持てたから立て直せた。ただ、チームの変化について、コーチ陣からは少しは良くなっているのではないかと言われたが、自分自身はあまり実感できていない。「何をやるか」という定性的な部分ではなくどこまで突き詰めるかというあいまいな部分の変化で実感しにくいというのもあるのかもしれない。
今年のチームなら甲子園ボウルに行って日本一になる未来は見えていたので、最初の3戦(自分たちの戦いが)できなかったというのは責任を感じるし、もったいなかった。その思いを次の試合にぶつけたい。4年生は散り際を大切に、あと2週間でアメフト人生が終わるというところでどこまで懸けることができるか、3年生以下は4年生がいなくなる来年に向けて、上級生としてどれだけリーダーシップを取れるかというところだと思う。