アート×ビジネスを軸に事業を展開するALT Projectが、2回目となる展示会「ALT+>>」を1月28日から2月2日にかけて開催する。ALT Projectの学生部門「ALT Youth」に所属し、本展示会の制作に関わった東大生に、活動に込めた想いを綴ってもらった。
(寄稿=ALT Youth)
起業家と芸術家
一見すると遠く離れた存在に見える両者の間はどのように結ばれ得るのか。
二者の間にどのような共通項が見出せるのか。
アートから生まれる「ありうべき未来」とは何か。
そもそも、アート作品の価値とは何か。
展示会「ALT+>>」ではこのような問いに対して、アーティスト集団 ALT が出してきた暫定解をお見せします。
ALT とは?
2021 年に結成されたアーティスト集団 ALT は、東大OBで東京藝術大学修士課程の下山明彦さんが率いています。起業家でありながらアーティストでもある彼が、「ありうべき未来は、アートから生まれる。」という未来志向のステートメントを掲げ、世界の営為に芸術を以ってして参加するべく、多くのプレイヤーを巻き込みながら活動しています。
そんな ALT には、東京大学及び東京藝術大学の学部生が「ALT Youth 」という学生団体のような枠組みで関わっています。その目的は、ALT の加速度的な活動を下支えすること、そしてそれ以上に、強みを異にした東大生と藝大生が具体的に共創する場を実現することです。
例えば、東大生メンバーはALTの活動それ自体を分析対象としたリサーチ活動を行うことで、理論や言語表現を主に担っています。加えて、事業開発といったビジネスサイドにも取り組みます。一方で、藝大生メンバーは ALT の作品作りや表現の核となります。正にアカデミアとビジネス、アートの三拍子が揃った無二の空間です。
さて、いよいよ活動内容の核心に迫っていきましょう。
起業家のビジョンをアートにすること
ALT がやっていることを簡潔に表現したらこんな感じです。
ビジネス×アート? 概念としてはわかっても、いまいち実感が持てないかと思います。具体例を元に説明を試みます。
2022年、ALTは東大OBの橋本舜さんが創業された株式会社 BASE FOODと一緒にプロジェクトをしました。BASE FOODは、完全栄養食を通して主食にイノベーションを起こし、健康をあたりまえにすることを目指している企業です。そしてプロジェクトの目標は、未来志向のアートによってその BASE FOOD のビジョンを進化させること。
プロジェクトではまず、起業家(橋本舜さん)とワークショップを行って、思想やビジョンへの理解を深めていき真っ新な部屋の中、対話しながら思いつくままに作品アイデアを表現します。
次のステップは社員の方々とのワークショップです。BASE FOODは完全栄養食を通して健康をあたりまえにすることを目指しているわけですが、その「健康」の捉え方は人それぞれなはず。ビジョンの中心的な概念である「健康」がいかに多様に解釈可能であるかを対話を通して実感し、作品案に落とし込んでいきます。
そしていよいよ、アートメイキングに入ります。アートを通して新たな「問い」を立て、世界の分岐を作ること=ビジョンに他の可能性を与えることが狙いです。完成した作品の一つを紹介しましょう。
ALTはアート作品を「参加的対話型鑑賞」という方法でインストールします。社員の皆さんがこのアート作品に参加し、実体のあるモノを通して対話をしていきます。
ALTの作るアートとは解釈を一意に定めるものではなく、鑑賞者それぞれの受け止め方が肯定されるべきものです。油絵具を塗り重ねるように、対話を通して作品に解釈を塗り重ねていきます。そこで実感される解釈の「違い」を言語化することを通して、「実はこんな世界もあり得るのでは?」という我々の作りたい「世界の分岐」が生まれ、ビジョンを進化させていくのです!
1月28日〜2月2日開催の展示会「ALT+>>」について
ここからは、展示会「ALT+>>」についてご紹介します。
ALT が結成以来の2年間で実践してきた活動を振り返るとともに、ALT の未来を提示する展示会「ALT+>>」を開催します。「ありうべき未来とは?」「アートとは?」「価値とは?」という大小さまざまの問いを通じて、ALT の活動を支えるビジョン・思想に光を当てる展示会です。
本展示会では、下山明彦さんの修士課程の卒業展示に合わせて、東京藝術大学構内に2階建のプレハブを設置し、ALT が企業様向けワークショップ等のプロジェクトを通じて制作してきた作品群を一斉展示します! 2階建のプレハブという展示空間を最大限に活用し、ALT のこれまでの活動を振り返ると同時に、これからの ALT が描く未来の世界観を表現していきます。
展示会のカタログ作り
また、展示会を機に、ALT の活動そのものや、ALTの来し方行く末を多角的に分析するリサーチを行いました。このリサーチ活動は、東大生が中心的にコミットしたもので、その成果は展示会カタログ「ALT+>>」に収められています。
10月から11月にかけて、各自の関心に沿ったテーマについて論稿を書き進めながら、週に1回のミーティングでお互いの文章に対してフィードバックを返し、それを受けて修正していく、というサイクルを回していました。
アートは企業の経営にどのように貢献できるの? アートの「民主化」って一体何? 人間はどうやってアートに「価値」を見出すの?
このような問いを中心に書き進めました。アートに対する専門知がほとんどないところから始まったため、論文や資料を読み漁り、思想を組み立てていきます。難渋する場面も多々あっただけに、デザイナーの方の手による美しい装丁を施され、自分たちの書いた文章がカタログに掲載されたのを見たときは、達成感もひとしおでした。
同カタログには、論稿だけでなく、ALT Projectが企業様ワークショップ等のプロジェクトで制作した作品の画像のほか、所属アーティストの文章も掲載されています。全体として、ALTの2年間の活動を余すことなく語りつくしたものとなっており、読み応えに関しては申し分ないと自負しています。ご来場の折にはぜひ手に取っていただけると幸いです!
開催概要
<場所>
東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学構内グラウンド
<開館スケジュール >
1月28日(土)〜 2月2日(木)9:30〜17:30 (入場は17:00まで)
<予約方法>
日時指定のオンライン事前予約制で、以下のホームページにてご来場希望日の10日前の午前10時より受付を開始いたします。入場料は無料です。
https://www.e-tix.jp/geidai_sotsuten23/
(コロナ対応として当日来場するためには事前予約が必要あり、短時間のうちにチケットが完売することが予想されるので、ご興味のある方は気合を入れてご予約ください!)
ALT のこれから
ALT は世界の全てにアート的に参画する挑戦の真っ最中です。これからも面白いワクワクすることをたくさん仕掛けていきます!
例えば、地方自治体との新たな芸術祭の開催への動きが始まっており、地方展開も進めていくところです!また、アートの制作者も愛好家も気軽に往来し語り合うコミュニティとアトリエを運営しようとしています。
何はともあれ、ALTは未来のアーティストや起業家、研究者が高密度で集まっている奇跡みたいな空間なので、何でもできると思っています。興味がある!という方は、ぜひ一度ALT のアトリエに遊びにきてください。歓迎します!
以下のALT 公式ホームページのお問合せ欄に書き込んでいただければと思います!
ALT メンバーの活動への想い
今回の展示会に関わっているALT Youth東大生メンバーは以下の3人です。
・プラート アルヴィン(2年・理Ⅱ→工学部システム創成学科Cコース)
・杉山立弥(2年・理Ⅱ→教養学部教養学科地域文化研究分科北アメリカ研究コース)
・岡見知明(2年・理Ⅲ→医学部医学科)
最後になりますが、イベントにかかわる東大生メンバーの声を紹介する意図を込めて、ALT やアートについて語った自前のインタビューを掲載して締めくくりたいと思います。どうぞご笑覧ください。
岡見(以下、岡):どうもです! ここにいる3人は理Ⅱ・Ⅲ22組で知り合って以来、ありがたいことに進振り後の今もこうしてご縁が続いてる訳だけど(笑)。
アルヴィン(以下、ア):どうも!ほんとだ、言われてみれば長い付き合いだね(笑)。
岡:さあ、前置きはこの辺にして、今日は杉山くんの進行に沿って残るアルヴィンと僕が話していこう。
杉山(以下、杉):了解! では早速だけど、東大生がアートプロジェクトに関わっているということで、これまでの人生の中でアートとの接点は?
岡 僕は小さい頃から絵を描くのが好きで、小学生の時は暇さえあればいつも何か描いてた。今も大学で美術部「踏朱会」に入っていて、五月祭に水彩画や鉛筆画を出展したりしてる。
ア 僕も絵を描くのは小さい頃から好きだった。中学の頃は美術部に入ってたし。そういえば岡見は小学生の時描いた絵が教科書に載ったんだっけ?
岡 記憶が正しければ、生徒用の教科書に立体作品が載ったことがある! 絵も5・6年向けの教科書に載りかけたんだけど、色々あって先生が使う指導用の教科書に載った。それはそうと、化石好きの印象が強いアルヴィンが美術部に入ってたというのはちょっと意外。地質部は中学になかったのかな?
ア 美術部員でも根は化石好き。描く絵のモチーフはアンモナイトとかの古生物だった(笑)。あと、化石だってアートみたいなものなんだよ。特にクリーニングっていう化石から石を取り除いていく作業はいわば彫刻で、いかに美しく仕上げるか?の勝負だから、必然的に美学が磨かれていく!
杉 カタログに書いたことをざっくり話してもらいましょうか。
岡 カタログの序文に「人間が『つくる』ことの意味」というフレーズがあって、これに興味をもった。たしかに人間はいろんなものを「つくる」。そして僕も今まで何かしら「つくって」きた。だけどその意味というのをちゃんと考えたことないなと。そこで、駒場で受けた「神経美学」という題の授業で扱われたテーマや、AIアートの話も絡めて「人間の創造性」について書いたという次第です。心残りは、「動物の創造性」について書けなかったということ。中学時代にメダカの色覚を調べる実験をやっていたというのもあってその辺りには興味があるんだけど、それは今後の課題ということで(笑)。
杉 興味をもったテーマについて、独自に選んだいろんな視点から多角的に考えてみたということだね。アルヴィンは?
ア 僕の場合、まず研究者でありながらも起業したいというビジョンがある。一方で、それと同時に「こんな未来があったら面白そうじゃない?」というワクワクする未来を、社会に彫刻できるようなアーティストでもありたいとかねがね思っていた。そういう未来の可能性を広げるような「問い」を世に発していける起業家でありたいな、と。自分の起業哲学の中にALTの活動を位置付ける方法を探りながら書いたという感じ。
岡 別のコミュニティを通じてフィンランドへ研修に行って、その成果も論稿に盛り込んでいたよね。
ア そうなんだよ。折よく参加した Aalto大学(フィンランド)でのリサーチ研修で目の当たりにした「Technology/Business/Design の学部の学生による分野の壁を超えた共創」がALTの活動と似ていて、アートと起業の関わりがとてもクリアに見えた。アーティストも交えた起業の形をリアルに考えたことで、僕にとっては最終的にこんな起業をしてみたいという決意表明のような文章になった。
杉 将来プレイヤーとして活躍する上での決意表明ということだね。ところで、ALT には藝大の学生もいるよね 。藝大生と一緒にやっていく中で感じる面白さや難しさはどんなところにあるかな?
ア 難しさについて言うと、僕のつくったプレゼン資料が、藝大生からデザイン面でぼこぼこにされた(笑)。でも彼らはその道の日本一だから、指摘は甘んじて受け入れるしかない(笑)。
岡 (笑)。でもそれは本当にいい機会だよね。実際、一緒にプロジェクトをやっているといっても、彼らのプロフェッショナルな制作に我々が直接的に関わることは難しいし、我々が文章を書いているところに藝大生があまり突っ込んでくる訳でもない。だから、そういう機会に彼らがもってるセンスみたいなものを吸収できるのはすごく面白いし、貴重だと思う。
ア そう。だから、最高のフィードバックを受けられたと思えば、今の話はこの団体で経験できる面白さでもある。
岡 たしかに。僕も彼らがもってるアーティストとしてのプロフェッショナリズムを感じている。まだ具体的な言葉で語れるほど理解できてないけど。自分もあれぐらいの熱量で学問に向き合わないとなあ、とか思ったり。
ア 岡見はいま医学部の授業でスケッチしてるんだよね。
岡 そうそう。それで、医学的に求められる厳密さやわかりやすさの縛りの中で、どこまで見栄えの美しさを追求できるか?という戦いをひそかにやっている。その戦いに挑む同志は今のところ学科内にいないから(笑)、たまには藝大生のアドバイスがあるとうれしいな。ご指摘は甘んじて受け入れます(笑)。
ア (笑)。あとは、藝大生はクリエイターとしてのこだわりがありながらも、アイデアを形にするまでが速いと思った。やり方の引き出しと想像力を豊かに持っている感じ。このスピード感は起業家としてもすごく大事で、見習っていきたいところ。特に僕は抽象的な概念を頭の中でこねくり回してることの方が多いから、その手を動かす技術を習得したい。
岡 たしかに、プロジェクトが進んでいくのも速いよね。ベンチャーとかで働くってこんな感じなのかも?と勝手に思っている(笑)。アートはもちろん、スタートアップに興味のある人なんかもALTに向いてるかもしれない。
杉 なんだか勧誘みたいになってきたね(笑)。では最後に勧誘の意味も込めて、「これからどんなことをやっていきたいか?」を語ってもらえますか。
ア ALT の活動のマネタイズ、うまくいけばスタートアップとして自立できる感じになったらおもろいのでは、と思ってる!
岡 面白そう!カタログに書いたことが実現するといいよね。これからも自分の興味関心を活かした形で貢献できるといいな。
ア それもそうだね。あと、自分のことをアーティストと名乗れるようになりたい!ともかくも、ここから起業が生まれたら激アツ!
岡、杉 間違いない!!