前期教養課程で必修の授業の中でも負担が大きいと言われることが多いALESS/SA(英語で論文を執筆する授業。理科生向けにALESS、文科生向けにALESAが開講されている)。新入生はALESS/SAの授業をどう乗り越えるべきなのか、東大新聞の部員4人に座談会形式で聞いた。(構成・渡邊詩恵奈)
【宇】文系・2年。
【冴】文系・2年。
【桃】理系・2年。
【伊】文系・3年。
──ALESS/SAを受けたセメスターの履修について教えてください
【宇】1年次のうちに文科の修了要件を満たし、2年次で法学部に進学するなら2年次法学部専門科目を取り、しないなら授業をゼロにすることを目標にしていたので、1Sセメスターは15コマ取っていました。その中で初年次ゼミナール(初ゼミ)とALESAが重なり、正直無謀だったと思います。6月末には両方の論文が佳境を迎え、東大新聞の活動ができなくなってしまいました…。
【冴】自分も1年次で多くの単位を取りたいと思って、15コマ履修しました。ただ、予習復習が必要な授業が少なく、ALESAとの両立が難しいと感じることは少なかったです。一方ALESAの論文と東大新聞の記事の締め切りが重なり、参考文献を読んだ後、論文をほぼ1日で仕上げることになり大変でした。
【桃】私は16コマ取っていました。16コマ中11コマが必修で、行きたい学科の要望科目も受けたかったため、コマ数を減らすのは難しかったです。金曜日が実験で土曜日がALESSの課題の提出日でしたが、実験の予習を優先し、金曜日までALESSの課題に手をつけない週もありました。
【伊】私も16コマ受けていました。一応、初ゼミも同じセメスターでしたが、私のゼミは論文を書く必要はなく心理学関連の内容についてレジュメを用意してプレゼンを1回するだけで良くて。ALESS/SAと初ゼミが被っている人の中ではかなり楽だったと思います。
──同じようにALESAと初ゼミが被っていると言っても【宇】と【伊】では状況が違いそうですね
【宇】僕は6月末に初ゼミの論文をできるだけ完成させて発表する会がありました。それとALESAの最終発表前の論文完成が重なり、地獄を見ました。土日でALESA論文を書いた後、初ゼミの原稿を書くという、とてもハードなことをしていました。
【伊】同じクラスでも、他のゼミを選んだ人たちは初ゼミもALESAも重くて、すごく大変そうでした。
──どんなテーマでALESS/SAの論文を書きましたか
【伊】私はナンセンス文学(言葉を使う上での常識的な約束事や論理性を無視した文学)の翻訳をテーマに、作品の大部分が造語で構成される『ジャバウォックの詩』を扱いました。
【桃】私たちのグループは災害地名について書きました。先生が最初にアンケートを取り、興味が似た人たちでグループを作って研究をしたので、進学選択の志望が似た人と仲良くなれました。
【宇】テーマとかも自由に決められる感じでした?
【桃】【冴】【伊】自由でした。
【宇】いいですね。うちは先生が用意した15個ぐらいのトピックの中から選ぶ感じでした。それ以外のトピックで書く場合は相談してね、って。トピック自体は抽象的だったので、その中で自由に書けましたが、完全に自由なのはうらやましいですね。僕は確か発展途上国での気候変動に関する教育の可能性について書きました。
【冴】自分は中東に興味があったので、パレスチナで1980年代に起きた民衆蜂起であるインティファーダと女性の関わりについて書きました。時間の都合でできなかったものの、文献を読むだけでなく、先生から紹介された、実際に関わった人に話を聞けたら良かったと思います。
──なぜそのテーマを選んだのでしょうか
【宇】欧米では環境問題への関心が高く、それに比例して新聞などで取り上げられる回数や文献の数が多いです。自分の関心に合うテーマのうち、書きやすさから環境問題を選びました。
【伊】他の授業で紹介された詩の「ナンセンスではあるが無意味ではない」点に興味をもったことがきっかけです。当時は他の授業を聞いているときも論文のネタにできそうな題材を探していました。
【冴】中東に興味があって、夏休みにインティファーダに関する日本語の本を読んだのがきっかけの一つです。ALESAの授業での文系論文の発想を広げる方法を学ぶワークを通じ、「ジェンダー的な視点を加えるのも面白いのでは」と発想が広がりました。文献を読むと登場人物が男性ばかりだと気付き、その点をテーマにしました。
【桃】私のグループは全員が建築や社会基盤に関心があり、当初はその分野で研究しようと考えましたが、ALESSの範囲で可能な建築系の研究に何があるか悩み、防災の観点から都市を考える方向にシフトしました。グループのメンバーの1人が「災害地名」という概念を提案し、興味深いテーマだと意見が一致したため、研究対象にしました。
──予想していた大変さと実際の大変さの間にギャップはありましたか
【宇】僕はありました。東大新聞に入っているぐらいなので、書くことは趣味みたいなものでALESAもその延長だと思っていたんですが、文献を読むためには英語力が足りず、とても重い印象でした。
【冴】自分の場合、Sセメスターに履修した人たちが大変だと言っていたので、始まる前は恐れていました。でも最初の方は2時間あれば終わる緩い宿題が多かったです。ある週、急に「今週で論文を全部作ってください」と言われて、本当に地獄のような思いをしましたが、他はそこまで大変ではなかったですね。
【桃】私は思っていたより楽だったというのが所感ですね。研究内容にもよるとは思いますが、土曜日を潰しさえすれば良い感じでしたね。
【伊】私も初ゼミが軽かったので、想像より楽でした。
──執筆にあたって工夫した点は
【冴】論文を探すのに授業でもおすすめされたJSTORを使いました。マイナーなテーマなので、論文を探すのは若干苦労しましたね。UTokyoアカウントで認証すれば、有料の論文も無料で見られます。
【桃】私はずっとGoogle Scholarを使っていました。
【宇】僕もGoogle Scholarです。新聞記事を読むときはThe Guardianをよく使いました。リサーチをしやすくするために環境問題をテーマに選んだところもあるので、それは工夫した点の一つですね。参考文献によって取り組みやすさに大きな差があると思いますね。
【桃】本当にそうだと思います。避難所の収容人数ならどこも出しているだろうという臆測のもとで、地名に関してもひたすら客観性があるデータを基に調べました。
【冴】ニッチなテーマをあまりおすすめしないかも、と感じつつも、英語でしか調べられないことを扱うのが醍醐味だな、とも思いますね。
【宇】環境問題に関する教育は日本語だとニッチなテーマに感じるけど、英語では議論が進んでいます。英語で調べることで新しい知見を得られたと思うし、ALESAでやってよかったと思いますね。
【伊】テーマの範囲設定も重要だと思っています。範囲が広すぎると指定字数内で十分に深掘りできないので。私はテーマを詩全体から最初の4行だけに絞って書きました。
──高成績を取るために意識できること
【宇】いろいろな文献を読むことは意識しましたね。文系の論文は引用のウエイトが重いと思うので、いろんな視点を吸収しつつ、論文に組み込もうとはしていました。
【桃】私は出席が重要な科目なので、最低限、授業に遅れないようにしました。あとは英語力にあまり自信がなかったから、丁寧に課題をやること、構成を整えること、分かりやすい英語で書くことを意識しました。
【宇】1文を長くしないようにするとか、難しい構文を使わずに使い慣れた文法で書くとかね。
【冴】形式を守るのも大事だと思います。自分は形式である程度評価してもらえたと思うので、形式を守っていれば結構良い成績が取れると思います。ただ成績優秀者として冊子掲載を目指すなら、内容も洗練されたものにしないといけないと思います。【伊】さんは論文が冊子掲載されましたが、何かありますか?
【伊】意識したことは授業に出席して、毎回の課題をやるという最低限のことはやりました。論文の内容面では先行研究で取り上げた概念や理論をうまく利用して結論を導くことですかね。自分の論文とそれまで積み重ねられてきた学術的議論とのつながりを意識すると良いのかなと思います。
──ALESS/SAを通じて学んだことは生きていますか
【伊】今留学中で、英語で論文を書くALESAの拡大版みたいな課題が多いので、1年次に論文で書く経験があると、心理的な負担が軽減される気がします。あと英語での引用の仕方や論文の書き方は、後々絶対に役に立つと思います。
【冴】やっぱり困難に打ち勝つ力じゃないですかね。1日で千何百語書いたので、本当につらかったけれど、やりきる力はついた気がします。
【桃】書くことに関するハードルはかなり下がり、英語で論文を書けたことへの自信もつきました。それこそ英語で書いているから、普通に東大新聞の記事とか日本語で書くから余裕でしょみたいな感覚になりました。
──ALESS/SAを乗り越える1年生にアドバイスを
【宇】友達と相談しながら、時には先生や駒場アカデミック・ライティング・センター(CAWK)を頼りつつ、人の意見も聞きつつ、楽しくやってください。
【伊】先生によって変わると思いますが、ある程度テーマ設定に自由があれば、自分の興味のあることを書けるチャンスです。大変だとよく言われると思いますが、そこまで気負わずに授業に臨めばいいと思います。
【冴】まず、初回授業で全体のスケジュールを確認しましょう。自分の周りの人も急に「来週までに一度完成させて」と言われて、パニックになっていたので。
【桃】ALESSの場合は必要以上に恐れることはないというのと、あとは出席して、課題を期日までに出せば大丈夫だと思います。