池谷裕二教授(薬学系研究科)らは、アルコールが共感を促進することを実験的に証明した。アルコールの効能を理論的に解明し、共感の低下が見られる自閉スペクトラム症の治療にも役立つと期待される。成果は8月30日付の英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(電子版)に掲載された。
アルコールは円滑なコミュニケーションに役立つといわれる。近年の研究では、アルコール摂取が他者との社会的な絆を深めることが示され、共感の増大が示唆されている。しかしその神経回路の仕組みは明らかにされていなかった。
池谷教授らは恐怖を感じたマウスが動かなくなる性質を利用し、共感現象を調べる実験を行った。電気ショックを受けるマウスの様子を見た別のマウスが動きを止める時間が、エタノールを摂取した個体ではより長くなり、電気ショックを受けた仲間のマウスが抱いた恐怖に対する共感が増大すると判明。エタノールが共感を増大する効果を持つことが確認された。
実験では、痛みの情報を担う脳の前帯状皮質の興奮抑制バランスが、エタノール投与で抑制に傾くことも分かった。薬を投与して興奮抑制バランスを興奮側に傾けると、エタノールによる共感の増大が見られなかったため、バランスが抑制側に傾かなければ、エタノールによる共感の増大が現れないことが示された。
同様に、共感の低下症状で知られる自閉スペクトラム症への効果も調査。患者を模倣したマウスにエタノールを投与すると、病気にかかっていないマウスと同程度まで共感が増大し、エタノールによる共感障害の改善効果が証明された。
今回の実験で、共感が脳回路の精細な興奮抑制調節により生まれることや、薬で興奮抑制バランスを調節することで自閉症の改善に役立つ可能性も明らかになった。脳回路の興奮抑制のバランスの変化を観察することも、病態の理解や治療につながると期待される。
この記事は、2018年9月11日号からの転載です。本紙では、他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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