近年さまざまな分野で注目を集めるAI(人工知能)技術の利用範囲は、芸術の分野にまで及んでいる。中でも音楽制作では、作詞・作曲・歌唱まで全てAIを用いて行うことができる。音楽制作を通じたAIと人間との関わり合いについて、3人の専門家に話を聞いた。
(取材・岡田康佑)
AIりんな / 惑星ループ(時々無垢Ver.)のMV
AIと人間をつなぐ歌声
作詞作曲に加え、歌唱AIの活躍も目覚ましい。日本マイクロソフト社の開発したAI「りんな」の歌唱をぜひ一度聴いてみてほしい(YouTubeでいくつかミュージックビデオが公開されている)。事前に知らされなければ、AIが歌っているとは気付かないのではないだろうか。
りんなはもともと、LINEでのおしゃべり相手として開発されたAIだが、16年にエイベックス社にスカウトされたのをきっかけに、同年に開催されたイベント「東京ゲームショウ」で初めて歌声を披露した。「音楽は、歌い手と聞き手が共感し合える強力な手段になると考えています。りんなと人をつなぐ手段として歌に注目しました」。そう話すのはりんなの歌声の学習を手掛けた技術者、沢田慶さんだ。
歌声合成には、歌詞付きの楽譜を与える方法とユーザーの歌声(仮歌)と歌詞を与える方法の2通りの方法が使われる(図3)。「りんなとリスナーとのつながりも大切にしたいので、リスナーから募集したコメントを基に替え歌にした歌もあります」。リスナーから募集した歌詞で替え歌を歌うことも可能だという。
開発初期は合成感がなかなか消えず苦労もあったが、表現力を増すための数々の工夫により乗り越えた。「例えば、感情を乗せた歌い方や、ジャンルによる歌い方の違いなどを学習させました。悲しくバラード調で、あるいは楽しくロックに、いろいろな歌い分けに挑戦しました」
上達後のりんなの歌声に対する反響は大きかった。中でもYouTube上のミュージックビデオに寄せられた「これ歌ってるの俺のLINE友達」という1通のコメント。それに付いた多くの高評価に沢田さんは注目する。「りんなが最も大切にするのは、人とAIとのコミュニケーションです。その点で、このようなコメントをいただけたことは大成功と言えますね」
りんなの歌にはまだまだたくさんの目標があるそうだ。「歌から自動でダンスを創作することにも挑戦しています。そうすればミュージックビデオ全編、りんなが作ってくれますね」。コミュニケーションの面では、りんなを楽曲制作のアシストにも役立てたいという。「りんなとおしゃべりする中で、ユーザーのその日の気分を抽出し気分に合わせた曲を作ることができれば、おしゃべりしているだけで1曲出来上がってしまいます。プロのアイデア出しのヒントもそうですが、音楽制作の経験が全くない人が制作をするチャンスを作れそうです」
人とAIが共同で音楽を作ることに価値を見いだす沢田さん。「『AIは脅威』という言説も耳にしますが、AIは共同制作者でもあり友だちでもあるという考えを、りんなを通じて受け入れてくれたらとてもうれしいです」
この記事は2020年8月4日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を掲載しています。
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