今はやりの最新技術、AI。必要性は感じるが、ビジネスにどう活用していいか分からない――そんな悩みに応えるシンポジウム「AIビジネス成功の秘訣を考える~AI導入の成功事例から読み解く~」が8月29日、本郷キャンパス伊藤謝恩ホールで開かれた。
登壇者は、メーカーなどにAIプロジェクトの内製化支援を行う東大発ベンチャー・アイデミーの石川聡彦社長と、電通のビジネス共創ユニットを担う片山智弘さんの2人。AIビジネスの最先端に立つ2人が指南する、AI活用の秘策とは。
(取材・一柳里樹)
対談の初めに、2人がAIビジネスの現在地を分析した。石川社長は「2012年に初めてディープラーニングの活用が叫ばれてから5年以上が経ち、試作品から実運用に移っていく時期ではないか」と解説。片山さんもこれに同意した上で、エンターテインメントやアートなどAIと縁遠いと思われていた業界でAIが活用されている事例を紹介し「AIが今よりもっと安く、もっと汎用的に使われるようになる」と予測した。
AIには一部例外を除き、責任が取れない、判断できない、教師データがないと動かせないといった問題が付いて回る。しかし片山さんは、電通の開発したAIコピーライター「AICO」のように「たたき台として最初の切り口を出させる」こともAIの活用法だと語る。石川社長は、Yahoo!がニュースのサムネイル画像のトリミングを機械学習で最適化させ、クリック率を数%向上させた事例を紹介。このような、AIが上げている「地味な成果」がメディアに紹介されないまま埋もれているとした上で、「メディアで取り上げられる分かりやすい事例に惑わされず、目の前の課題を適切に改善していこう」と呼び掛ける。
対談は、会場から募った質問を司会者や対談者が拾っていく方式で進んでいく。「AI活用が一番ホットな業界は」という質問には、石川社長が「自分の専門領域から攻めるのは良いのでは」と助言。大学院生時代、水処理の研究室で膜処理が必要となるタイミングの予測にAIを活用した経験も踏まえ「どの業界であっても、一つの業界に特化してAI活用を進めようとすると、AIで解くと効用が高そうな課題を見つけるのに専門知識が必要になる」と分析した。一方、片山さんは、一番AIを活用しやすいのは「データを取れるサイエンティフィックな分野でありながら、判断は人間が介在しないと難しい」領域だと話す。具体的な業界としては、自動運転の実用化が待望される自動車、教育、データの取りやすいヘルスケアや医療を挙げた。
AI活用を推進する現場からは、「旧来型の日本企業でAIの理解度を高めるためにどんなアプローチが有効か」という切実な悩みも。片山さんは「社長が上から推し進めるやり方と、利便性や価値が伝わりやすいケースを作って社内啓発するやり方の二つが有効だ」と助言する。後者の方法の場合、「コストを100万円削減できる」「勤務時間を6時間減らしてくれる」など管理職に理解しやすい言葉で説明することの重要性を2人は口々に語った。
一方、AIの活用には落とし穴もある。石川社長によれば、「半年や1年でドラスティックな成果を出すのは難しい」のが機械学習。例えば、工場の製品検査をAIに代替させる場合、最初は人の目とダブルチェックするところから始め、徐々に人員を減らしていくこととなる。中長期的には成果を上げられる目処が立っていても、「短期的に日々の成果を追い掛ける」現場には有用性が理解されにくいのが現状だ。片山さんも、AIの導入当初に「PDCAサイクルを何度も回さないと成果が出ない」という理解を広げることが重要だと話し、「システムの実装後に改修を繰り返さないと失敗する」と強調。AIの導入に併せてログ解析の仕組みを組み込み、内部のデータを分析することを提案する。
AI人材がいない企業では、外注や協業でAIビジネスを展開することが多い。外注で事業を成立させるこつについての質問も飛んだ。石川社長が警鐘を鳴らすのは、発注する側の手持ちのデータありきで話を進めていく事例。それでは「受注者側は何をしていいか分からず、よく分からないアウトプットしか出てこない」。重要なのは、発注者側が最終的なゴールを明確化することだ。加えて片山さんは、必要となるデータの量や厳密性を事前に吟味し「どのレベルのAIを使うか」発注者としても仮説を立てておくべきだという。さらに、発注先のレピュテーションを事前に聞くなど、慎重なマインドセットを持つことが大事だと話す。
逆に、AI企業で働くビジネスパーソンが意識すべきことは何か。石川社長は「特に日本のAIベンチャーでは、大企業に信頼していただくことが成功するための一番のキーファクター」だと分析。片山さんは、事業理解やビジネスモデルへの想像力の重要性を強調した。
発展著しいAIだが、それを生かすのも殺すのも生身の人間。先駆者2人の話から、AIをビジネスにつなげるヒントを得た1時間だった。