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2016年6月29日

東大はなぜ推薦入試を増やすべきなのか。東大教授や教育改革実践家らが激論

 「今年から、東大と京大で推薦入試が始まりました。これを受けて、推薦入試についていろんな議論が起こりましたが、実は日本のトップ大学の多くは推薦入試に舵を切り始めていて、筑波大学は3割の学生、東北大学や名古屋大学は2割の学生がすでに推薦で選ばれています」

 

 そう語るのは、スズカンこと鈴木寛教授(東京大学公共政策大学院)だ。文部科学副大臣の経験もある鈴木教授は、詰め込み型の教育ではなく生徒が主体的に学ぶ教育形態(アクティブ・ラーニング)の必要性から、旧七帝大、早慶、東工大、筑波、一橋の12大学の総長・学長と個別に面談をするなどして、推薦入試の重要性を訴えてきた。

 

 しかし推薦入試には、客観性を保てるのか、どのような基準で選考を行うのか、大学教員が正しく受験生を評価できるのかといった疑問もある。昨今、推薦入試の重要性が説かれるようになったが、その背景には何があるのだろうか? 東京大学公共政策大学院・人材政策研究ユニットが、6月17日(金)に行ったアクティブ・ラーニングに関するシンポジウム(開催協力:学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校、東京大学新聞社、認定NPO法人カタリバ)での議論から、その理由を考えたい。

 

(取材・文 須田英太郎)

 

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開会の挨拶をする鈴木教授(主催者提供)

 

脱〈指示待ち人間〉。21世紀に求められる人材とは

 

 イベントには、高校の教職員や、研究者、高校生の子供を持つ保護者など、約170名が集まった。冒頭では鈴木教授が、生徒が主体的に問題を見つけ、周囲と協働しながら問題解決を図れるようにする教育手法「アクティブ・ラーニング」の重要性を語り、与えられた選択肢から答えを選ぶタイプの入学試験と、高校生が試験で正解を求める訓練ばかりを受けていることを批判した。

 

 教育評論家で、東京都初の民間人校長としても知られる藤原和博さん(現在は奈良市立一条高等学校校長)は、現代社会で必要とされている能力の変化について指摘。安定した成長が見込まれる社会では、「みんな一緒」であることが求められ、正解に至るための情報処理力が重要だった。しかし、21世紀の「正解がない」成熟社会では、情報を組み合わせて一人一人が納得するための情報編集力が重要であるとした。

 

 この時代に対応するためには、一つしかない「正解」の出し方を訓練するのではなく、思考力、想像力、判断力を養成しなくてはなくてはならない。その点では、生徒が高校生活で何をしたかを評価する慶應義塾大学のAO入試のような選考方法が優れており、東大や京大の入学試験にも変化が求められていると、藤原さんは指摘した。

 

 

プログラミングコンテストで優勝するような小6に先生がプログラミングの何を教えるのか?

 

 慶應義塾大学の特別招聘教授であり、学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校の評議員でもある夏野剛さんは、カドカワが作る通信制高校であるN高等学校について紹介した。

 

 夏野さんは、2015年の「U-22プログラミング・コンテスト」で小学6年生が経済産業大臣賞を受賞したことに触れ、生徒の能力が多様化する中で、教員が生徒に教えることの限界を指摘。「インターネットによって、知識を教えることの重要性が減り、『教える/教えられる』の関係が変わっています。今の高校教育では評価できないような才能を、インターネット上で発揮しているような生徒がたくさんいる」と語った。

 

 夏野さんによれば、教育現場では知識を伝えるために割く時間を最小限にとどめ、学習指導要領にない課外授業で、生徒自身が自分の好きなことを見つけ、深めることが重要だという。N高等学校では、ドワンゴの新入社員研修レベルの実践的なプログラミングの授業や、角川に蓄積された文芸小説創作のノウハウを用いた授業などが提供されるそうだ。

 

 他にも、岡山龍谷高校専務理事の中村好孝さんやOECD日本イノベーション教育ネットワーク事務局長の小村俊平さんによるアクティブ・ラーニングの実践現場についての報告や、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さんと現役高校生2組からの「マイプロジェクトアワード」についてのプレゼンテーションなどがあった。

 

 

大学入試が変わらないと高校教育の現場は変われない

 

画像は主催者提供
パネルディスカッションで藤原さん(中央)が熱弁を振るう(主催者提供)

 

 登壇者全員が参加したパネルディスカッションでは、日本の教育が知識詰め込み型から「アクティブ・ラーナー」養成型に変わっていくために必要なことなどが話し合われた。

 

 鈴木教授は、日本の人々が入試に対して形式的な客観性を重んじすぎていることを指摘。「企業の就職試験では曖昧な基準で採用しているのに、入学試験は点数で評価できるテストへの神話がある」として、点数による客観性偏重の風潮をなくさないと、教育改革はうまくいかないと主張した。大学入試でも、推薦を活用する大学が今後ますます増えていくという。

 

 鈴木教授や藤原さんは、学力の評価基準が知識を重視するものから、思考・判断・表現を重視するものに変わっていきていることを繰り返し指摘。矛盾や葛藤、トレードオフなどの板挟み問題をどう解くか考える能力が、これからの時代に必要とされる人材だとして、「社会とは何か」「人間とは何か」といった本質的な疑問を考える訓練をすべきだと説いた。

 

 このような新しい時代に求められる能力を、高校教育が学生に身につけさせるためには、高校を評価する一つの指標となっている大学入試が、受験生の思考力・判断力・表現力を測るものに変わっていく必要がある。鈴木教授は、筆記中心である東大の二次試験が、ある程度これらの能力を測れているとしながらも、より柔軟に有能な受験生を選考できる推薦入試の割合を増やすべきだと主張した。

 

 

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