東大は1日、渡邊嘉典教授(分子細胞生物学研究所)らが『ネイチャー』や『サイエンス』など国際的な科学誌に2008~15年に発表した5本の論文について、渡邊教授と元助教の2人によるデータの捏造(ねつぞう)・改ざんなどの不正行為を認定した。不正を指摘する告発状を16年8、9月に受理し、調査を進めていた。今後は渡邊教授が発表した他の論文について追加調査を実施する予定だという。
調査報告によると、5本の論文では①あたかも実験が行われたかのように作成されたグラフの掲載②異なる条件下で取得した画像の比較③画像の過度な加工――など、計6件の捏造と計10件の改ざんが確認された。論文の責任著者だった渡邊教授や、筆頭著者だった元助教の丹野悠司氏の不正行為を認定。調査報告では、渡邊教授が主宰する研究室内で渡邊教授による強い指導体制の下、不適切な画像の加工が常態化していたと指摘されている。丹野氏については「誤った教育・指導によるいわば犠牲者の側面も有する」とした。
分生研では14年にも、加藤茂明元教授の研究室による研究不正行為が認定されている。分生研は今回の件を受けての再発防止策として、不正対策組織の体制強化や、研究所運営の改善に向けた外部委員会の新設を掲げた。現在の「研究不正対策室」を「研究推進室」と改め、第三者的立場から実験データをチェックするなど研究室単位の閉鎖的環境の改善を目指す。外国人研究者4人と日本人研究者3人からなる「分生研 Advisory Council」を通じて、研究不正の監視など研究所運営に外部からの意見を適切に取り入れるという。
今回の告発状では渡邊教授の他に医学系研究科の5人の教授に関する論文についても不正の疑惑が指摘されていたが、同様の調査を実施した結果、不正行為はなかったと報告された。告発状の指摘にあるような不適切な画像の加工などは確認されたが、いずれも実験は実施されており、作図者によるソフトウェアの操作ミスや出版社による編集などが原因で捏造・改ざんとはいえないと判断された。
今回の告発状は16年8、9月に受理され、予備調査を経て9月20日に本調査への移行が決まった。調査期間は10月13日~5月31日で、各部局からの資料収集や対象研究者への聞き取り調査などが実施されたという。東大は16年10月13日にも別の論文の捏造・改ざんを指摘する告発状を受理し、本調査を開始している。
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