本日幕を開けた第73回駒場祭。最大の注目はなんといっても、3年ぶりに対面で飲食企画の出店が認められたことだろう。 数年越しに戻ってきた、活気ある学園祭に向けた学生たちの胸の高鳴りはいかに。クラス企画の責任者たちに話を聞いた。(取材・清水央太郎)
文III・11組「方自遠の小籠包屋さん」 2学年の絆でつくり上げる小籠包
多くのクラスが下クラ(1年生が所属するクラス)単独での出店を決める中、数少ない上下クラ合同での出店を決意した。誘ったのは上クラ(2年生が所属する、同じ組番号のクラス)。進学選択を経て進学先がバラバラになるなか、なんとかクラスでの出店を目指したが十分な人数をそろえきれなかったという。「もともと4月のオリ旅行以来、上下クラ間の交流は盛んで、壁はありませんでした。合同出店の話が出た際も、反対意見は全くと言っていいほど出ませんでしたね」
下クラの駒場祭責任者は五月祭にも一応クラスで参加。しかしオンライン企画しかできず、できることには限りがあった。結果、準備も当日の来場者との交流も不完全燃焼に終わってしまったという。「正直飲食店の出店が認められていなかったら、駒場祭には参加していなかったかもしれません。僕らの代は高校時代もコロナで文化祭が満足にできませんでしたし、飲食店のような世間一般で描かれる『文化祭像』にすごく憧れがあるんです」(下クラ責任者)。今回はそんな憧れをかなえる絶好の機会。しかし、憧れだけで物事は進まない。クラスメートも先輩も誰もノウハウを持っていない中、駒場祭委員会に資料をありったけ請求し、読み込んだ。「クラスメートには(事前準備にそこまで参加していなくても)当日にちょっと来た時には明確なマニュアルがあり、なおかつ楽しめる状態にしておきたいなと思っています。準備などは分からないことだらけで大変ですが、なんとか頑張っています」
そんな上下仲が良い文Ⅲ・11組の出し物は小籠包。中国語選択クラスのアイデンティティーを強く感じる内容だ。「お店のイメージは基本的にセオリー通りを意識しつつ、随所に学生らしい遊び心を散らした感じにできればなと思います。もし東大の学生生活や受験に関する質問などがあれば小籠包の販売とは関係なく可能な範囲で答えますので、店は少し奥の方ですがぜひ来てもらえるとうれしいです」。上下クラ総勢60人の絆がつくり上げる小籠包をご賞味あれ。
(開催場所:5号館北飲食ブロック)
理I・25 組「コスプレボドゲ喫茶」 最初で最後のコスプレボドゲ喫茶
駒場祭の主役は、基本的には1年生。しかし今回、上クラ単独で乗り込むことを決めたクラスがある。それも、後期課程でほとんどが同じ学部に進学する文科I・Ⅱ類のクラスではなく、皆がバラバラの学科に進学する理科I類のクラスが、だ。コロナ禍で対面授業すらほとんど行われなかった昨年、一体いかにしてここまで絆を深めたのか。「昨年オンライン授業を駒場キャンパスで集まって受講する会を定期的に開いていたんです。基本的にクラスっていくつかのグループに分かれがちだと思うんですが、どんな人とも仲良く接してくれる子がいてくれたおかげでクラス全体の仲が深まりましたね」。責任者はそう振り返る。
クラス単位での旅行など数々のイベントで親睦を深めていったが、意外にも五月祭や駒場祭には参加してこなかったという。「やっぱりオンライン企画だと可能な企画に限界があるし来場者数もそんなに見込めなさそうだな、という気持ちが強くて…… でも、対面で飲食店をできるならぜひやりたいと思っていたので今回の駒場祭が本当に最初で最後のチャンスって感じですね」(責任者)
ようやく巡ってきた機会に、理I・25組が持ち込む企画は「コスプレボドゲ喫茶」。趣味のボドゲ(ボードゲーム)とやってみたかったコスプレを企画としてなんとか組み込んでみせた。「後期課程に進学してなかなか時間が確保しづらいので、もともと得意な分野を組み合わせて楽しめるだけ楽しむのがコンセプトです。みんな忙しいだろうに、男女関係なく仕事を頼んだら嫌な顔ひとつせず引き受けてくれて本当に感謝しかないです」。1年かけて皆と築き上げてきた絆が、互いを支え合っている。
青春は十代の専売特許ではない。クラスメイトの多くが二十歳を超えながらも、互いに助け合いながら精一杯楽しもうとする理科I類25組の姿を見て、そう実感した。企画をPRしてもらうと「東大生の、東大生による、来場者の皆さんのためのコスプレボードゲーム喫茶です!でも、ただ東大生とボードゲームを一緒にするだけではつまらない……。そこで、われわれ全員が、コスプレして皆さんをお出迎えします! 普段は見られない東大生と一緒に、ボードゲームで遊びませんか?」とのこと。そのほかにも、ドリンク販売や、休憩スペースもあるのでぜひお立ち寄ってほしいと話した。
(開催場所:12 号館 2 階 1221 教室)
駒場祭委員会 対面の魅力復活目指し
3年ぶりに飲食店などの出店が許可された背景には何があったのか。駒場祭委員会に、決断までのプロセスを聞いた。
過去2年間のオンライン開催について「対面の駒場祭にはない新たな魅力が生まれた」とした。一方で来場者と直接関わることができないという制約から、学園祭の熱気や一体感など対面の頃の魅力が薄れてしまったことや、駒場祭を「創る」側として関わる東大生が減少したことを指摘。そのような中で飲食企画は「クラスやサークルで駒場祭を『創る』側の立場として楽しむのに、『手軽さ』と『やりがい』を兼ね備えている」ものであり、実際に過去の駒場祭においては多く出展されてきた。以上のことを踏まえ「対面の駒場祭の魅力を取り戻すためには飲食企画の出展を認めるべきである」という方針を固めたという。
飲食店企画を認めるとなると、問題として上がってくるのが新型コロナウイルスの感染拡大リスクの上昇。しかし、この点については東京都や国のガイドラインを参考に「来場者が飲食することのできるスペースを生協食堂(飲食企画は矢内原通り付近で実行)と5号館北(飲食企画も5号館北で実行)に限定し、スペース内では黙食を徹底」すること、および構内の屋外で「飲食企画が出展できる場所は飲食スペースの近くのみに限定し、これを『飲食ブロック』として設置」するなどの感染症対策を実施することで対応する。さらにマスクの着用や、調理者の体調管理の徹底など、従来の感染症対策を組み合わせ「駒場祭にお越しになる来場者の皆さまにも、安心して飲食企画を楽しんでいただきたいと考えています」と述べた。
当初の方針決定時期から少し時間が空いた決定になったのは、委員会内だけでなく学生、そして特に大学との調整によるものだと説明。開催形態の検討は早い時期から行っていたが、1週間単位で感染者数が大きく変わる流動的な情勢の中で、大学側と意見を交わしつつ、慎重に情勢を見極めて判断を行ったため、決定時期を遅らせたという。