「科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績」を挙げた人に授与される紫綬褒章など、多くの東大の研究者が今年も栄誉ある賞を受賞した。それぞれの受賞理由や、どのような研究をしているのかについて研究に関わるキーワードを挙げながら解説した。対象としたのは2022年に紫綬褒章、文化勲章の受章、文化功労者の認定、恩賜賞、日本学士院賞の受賞を受けた13人。今回は紫綬褒章を取り上げる。各賞の違いも踏まえ、東大の研究者たちの活躍をまとめて見てみよう。(構成・清水琉生)
紫綬褒章
科学技術分野で発明・発見をしたり、学術やスポーツ、芸術文化分野で優れた業績を挙げたりした人物に、春は4月29日に、秋は11月3日に授与される。内閣府による春秋褒章の一つ。
紫綬褒章・春 持続可能な社会を支える
野崎京子教授(東京大学大学院工学系研究科)
有機化学合成・高分子化学への貢献により受章。有機合成の分野において新たな触媒と触媒反応を開発した。これらの新手法を高分子合成にも適用することで、高機能樹脂や環境問題の解決への貢献が期待される易分解性材料などの新素材の合成に成功している。2021年にはロレアルユネスコ女性科学者賞を受賞した。ほか、アメリカ芸術科学アカデミー外国人名誉会長に選出された。
キーワード:触媒、不斉合成、有機合成
玄田有史教授(東京大学社会科学研究所)
バブル崩壊後の長期不況下での若年者の雇用実態などを調査した業績などが認められ受章。就業機会に恵まれなかった人々に着目し、日本の労働市場構造や、自然災害の雇用への影響も研究している。政府統計の個票データ活用の先駆けとなり、成果は若年者の雇用問題に関する政策立案に反映されている。著書に『仕事のなかの曖昧な不安揺れる若年の現在』(中公文庫)など多数。
キーワード:雇用創出、労働経済学、ニート、不安定雇用
紫綬褒章・秋 あらゆる現象を「見せる」科学
岡部繁男教授(東京大学大学院医学系研究科)
解剖学、神経科学、細胞生物学分野の発展や教育への貢献により受章。神経細胞の細胞骨格にある機能やシナプス接続の動的な変化による新規の神経回路形成のモデルを、新たな光学顕微鏡を開発して得たイメージング技術で解明。神経細胞内で起こる細胞同士や細胞内での反応を観察することへ寄与した。監訳書に『スタンフォード神経生物学』(メディカルサイエンスインターナショナル)など。
キーワード:蛍光顕微鏡、イメージング、包括脳ネットワーク、シナプス解析
浦野泰照教授(東京大学大学院薬学系研究科)
特定の対象を可視化する化学プローブの設計による新たな分子イメージング技術開発を行うなど、生物学や医療への貢献が認められ受章。術中迅速がんイメージングで微小がんの取り残しの確率をげるなど臨床医療分野の研究も進め、生体内の分子のはたらきを高感度で検出する蛍光プローブ開発で生物学研究の発展へ大きく寄与した。著作に『がんの分子イメージング』(化学同人)など。
キーワード:蛍光プローブ、イメージング、光物理化学、微小がん
小原一成教授(東京大学地震研究所)
スロー地震学の創成の業績が評価され受章。通常よりもプレート境界がゆっくり動き、揺れをほとんど引き起こさないスロー地震の一つである「深部低周波微動」を世界で初めて発見した。巨大地震との関連を解明するため、スロー地震活動状況を正確に把握するモニタリング技術を開発しているほか、未解明の地震現象の探究も行い、地球内部の構造や現象の解明へ貢献している。
キーワード:スロー地震、固体地球惑星物理学、深部低周波微動
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