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2019年11月25日

囚人のジレンマで搾取の仕組み解明 心の狭い者と寛容な者の間で安定的に発生

囚人らは相手が黙秘しているときに罪を告白する方が得だが、両者告白するよりは両者黙秘した方が得であるという利己か利他かのジレンマを抱える(表は東京大学新聞社が作成)

 

 藤本悠雅さん(総合文化・博士3年)らは、互いに利己ないし利他行動を選択する理論「囚人のジレンマ」により、搾取が発生する仕組みを解明した。成果は5日付の米科学誌『フィジカル・レビュー・リサーチ』へ掲載された。

 

 囚人のジレンマは社会の行動選択を表す数理モデル。例えば、証拠不十分の囚人2人に別々に「もし両者とも罪を黙秘したら懲役2年、もし片方のみが相手の罪を告白したら告白した方は釈放、された方は懲役5年、もし両者とも告白したら懲役4年とする」と取引を持ちかける(表)。囚人個人としては相手の罪を告白する方が得であるが、両者告白するより両者黙秘した方が得になるという状況を表す。

 

 今までの囚人のジレンマにおける研究内容は、同じ取引を繰り返す中で相手が協力したら協力を、相手が裏切ったら裏切りを選択する「しっぺ返し戦略」を双方が獲得することで対称的な協力関係を築く仕組みが中心。搾取関係のように非対称な関係は注目されてこなかった。近年行われた搾取関係の研究では、初めから両者の非対称な状況が想定されていたが、両者が対称な状況から相互に学習を行う中で非対称な関係が発生するかは不明だった。

 

 藤本さんらは、囚人のジレンマにおいて両者が相手の行動を見て学習する前に取り得るさまざまな戦略を仮定し、計算機でシミュレーションした。結果、相手が協力しても確率的に裏切る心が狭い者と、相手が裏切っても確率的に協力する寛容な者の間に安定的な搾取関係が発生し得ることが判明。両者の能力は対称でも、初期行動の微小な差が増幅され、次第に大きな搾取関係が定着し得ることも分かった。


この記事は2019年11月19日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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