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2019年11月16日

安心できる修学支援を 奨学金新制度来年度より施行

 本年度5月の「大学等における修学の支援に関する法律」成立に伴い、2020年度から新しい奨学金支援制度が施行される。一方、近年国立大学では学費値上げが相次いで発表され、学生を取り巻く環境は変化してきている。新制度に伴う変化や学費値上げについて、専門家や高等教育無償化を訴える学生団体に話を聞いた。

(取材・山中亮人)

 

経済負担拡大の恐れ

 

小林 雅之(こばやし まさゆき)教授(桜美林大学)

 

 教育社会学を専門とする小林雅之教授(桜美林大学)は20年度から実施される奨学金の新制度について「金額的には画期的」と評価する。大学生の経済負担軽減に投じられる額は、今まで給付型奨学金と授業料減免制度への補助を合わせて年額約740億円だったが、来年度から消費増税による増収分が財源となり、年額7600億円となる。

 

 一方で今回の新制度は「2カ月ほどで骨格を決めたため、拙速」と分析。特に懸念が残るのは授業料減免だ。現在の国の授業料減免は各大学で自由に受給資格などを決定している。しかし来年度以降、新制度で授業料減免の対象外となる学生への補助は国が負担しない可能性があるため、多くの大学が独自の授業料減免を廃止する恐れがあるという。「大学によって異なるが、現在の授業料減免は年収700万円台まで対象となる。新制度では年収約380万円までしか対象にならない」と小林教授。

 

 奨学金の給付世帯と非給付世帯との不公平も問題点として挙げられる。新制度では給付額を、全額・3分の2・3分の1の3段階に分けているがフランスの8段階と比べるとこれでは不十分だという。支援を得るため年収を抑えるといったことが起こり得るからだ。

 

 近年東京工業大学や一橋大学などの国立大学では、教育研究費の捻出などの理由で学費の値上げが相次いでいる。小林教授は「04年度の法人化以降、運営費交付金が毎年1%削減されているため、予算的に非常に苦しくなっている」と指摘。04年度に1兆2415億円あった運営費交付金が、19年度には約1500億円減少している。「グローバル化の中で世界を相手に競争している大学の場合、より教育や研究に資金を投じなければならないという問題もある」

 

 しかし、学費値上げが解決策になるとは限らない。「東大の場合、収入に占める授業料の割合は約8%ほどなので、授業料を上げてもあまり収入は増えない」と小林教授は解説する。大学間の国境を越えた競争が過熱する中「授業料を下げることは難しいので、奨学金での対応が重要となってきます」。

 

教育の機会均等へ

 

中野 典(なかの つかさ)さん(農・4年)

 

 高等教育無償化プロジェクト(通称FREE)は18年9月に中野典さん(農・4年)ら東大生が立ち上げた学生団体。奨学金の返済に苦しむ人がいることに問題意識を持つ学生らが創設し、現在では約30大学から120人ほどが参加する。

 

 

 主な活動は学生への実態アンケート。「奨学金返済のため自分のやりたいことを諦めて将来の選択肢を狭めざるを得なかった」などのアンケート結果(図)を広め、より多くの人に学生の窮状を知ってもらうことを目的にする。今年10月には東大総長宛てに「授業料減免の水準を維持することと学費値上げを行わないことを求める署名」を駒場Ⅰキャンパスで実施。東大生402人をはじめ計486筆の署名を集めた。

 

 10月18日には文部科学省に、授業料減免の対象や規模が後退しないよう要請を行った。文科省は「来年度以降の新入生に対しては、現行の減免水準に基づく予算措置は取らない」と回答。FREEは現行の授業料減免を当てにする新入生が減免を受けられなくなることを問題視し、今後も交渉を続けていくという。

 

 平等に与えられなければならない教育の機会を金銭的事情で失う若者をなくすため、FREEは最終的に「全ての人への高等教育の無償化」を目指す。立憲民主党が国立大学の学費半額化を主張し始めるようになるなど、まだ一部だが、効果を実感している。「今後も学生の実態を可視化することで、賛同してくれる政党や議員を増やすことを目標に頑張っています」


この記事は2019年11月5日号から転載しものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。

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