近年「爆発」は頻発している。2011年の福島原子力発電所や今年の中国天津での工場での爆発事故は記憶に新しい。民間企業で爆発に関するコンサルティング業務を行う爆発研究所と、工学系等安全衛生管理室の土橋律教授(工学系研究科)に爆発に関する知識の必要性や起こり得る爆発事故の事例を聞いた。(取材・横井一隆)
吉田 正典(よしだ まさたけ)さん(爆発研究所)
爆発研究の人材が不足
爆発とは何かと聞かれて読者は何と答えるだろうか。爆発研究所代表取締役の吉田正典さんは「厳密な定義はなく、急速に火が燃え広がったり、ガスが噴出したりすること」だと話す。ガソリンなどのガスが高密度なときに引火すれば一気に燃え広がる。福島原子力発電所事故での水蒸気爆発は高圧になった空気が噴出して起こる爆発の一つだ。
爆発研究所は、工場などで爆発が起こった場合の規模を実験や計算で予測する爆発コンサルティングと、爆発の計算で使う海外製ソフトの代理店業務を行う。「最近扱った業務には、タイヤの中の空気が急速に噴き出す際の爆風圧計測などがあります」と吉田さん。トラックの直径1メートル近くあるタイヤに空気を入れる際、タイヤが破れてしまい、爆風で毎年数人が亡くなる。その対策のため、まず爆風の規模を評価しておく必要があるという。
TNT爆薬の爆発による爆風が防爆壁を回りこむ過程のシミュレーション(図は吉田さん提供)
爆発の研究で求められるのは、圧縮された気体や、物体の壊れ方などの複雑な計算だ。その複雑な計算では、気体がどう振る舞うかなどを過去の研究に基づき仮定するが、仮定の仕方で結果が大きく変わる要素もある。その要素のみ条件を変えながら野外実験をして適切な仮定の仕方を調べるという。「爆発コンサルティングに携わる民間企業で実験までするのは私たちくらいでしょう。より信頼性のある結果を依頼主に伝えることができます」と吉田さんは話す。
近年、11年の福島原子力発電所事故や、その後も化学産業で爆発事故を受けて、企業の爆発対策への意識が高まっている。実際、「12年以降、爆発コンサルティングの業務依頼が増えています」と吉田さんは話す。化学産業やエネルギー産業など爆発が起きる可能性がある産業では、起こった場合の規模を予測した上で対策を立てなければならないが「日本で爆発に関する研究・開発に携わっている人間は少ない」と吉田さん。例えば、核兵器保有国では、化学産業以外でも核兵器を起爆させる爆薬の研究や兵器の開発を行う必要もあり、爆発研究に従事する人が多い。爆発に関する知識が企業に求められている。
しかし日本では、爆発に関する知識を生かせる就職先がなく、大学でも学ぶ機会は少ない。爆発化学の隣接分野には、エンジン内での燃焼や人工衛星の衝突などがある。隣接分野出身者も含め、熱力学や気体の力学を基礎に爆発現象を理解している人材が求められている。爆発コンサルティングを行う企業も増えるのではないか、と吉田さんは語る。
吉田さんは、爆発現象のCG画像作製にも積極的だ。数値計算しただけではどこにどんな物質が分布し爆風の強さはどれくらいかしか分からない。爆発が実際にどう見えるのかが分かれば、コンサルティングの依頼主が爆発の規模を視覚的に理解できる。将来的には、爆発に対する理解向上のための教材となる映像集を作りたいという。また、映画での爆発CGを計算結果に基づいた正しい映像にすることも目指している。日本で未開拓な分野である爆発の重要性を認識してもらうため、草の根からの意識改革が必要なようだ。
この記事は、2015年11月24日号からの転載からの転載です。本紙では、土橋教授に聞いた続きの大学での爆発事故への対策の記事を読めます。