インタビュー

2016年2月2日

留学で得たインサイトを還元、日本人に足りない“自信と目的意識”を醸成する…前編

留学したけれど自信がない、何に向かっているかわからない。漠然とした不安をかかえる学生を前に、モッタイナイと感じた。たとえ周囲に無茶と言われるようなことでも目標を声にして、挑戦を奨励し合えるチームを創りたい。

 

そんな想いを語るのは『留学リノベーターズ』代表パートナー日比朝子さん。2014年12月より、留学経験者と未経験者をつなぎ、海外で得た刺激や視点を還元するための活動を続けているという。日比さん自身は留学を通じてどのように変わったか。留学の意義や留学リノベーターズ(以下、留リノ)にかける想いについて語ってもらった。

 

―――留学前の日比さんについて教えてください。

 

 もともと外交官や国連職員になることを目指していました。国際政治や国際的な規範づくりの場に関わることができたら、社会により大きなインパクトを残すことができる。私のなかに根本的にある“社会に貢献したい”という欲を満たすのに最適な選択肢だと思っていたんです。外交官や国連職員として働いて、世界の子どもたちが、将来を自由に選べるような世界を築くことを、幼いころから夢に描いていました。

 

朝子のアルバムから (9)

 

―――そのような気持ちはどのように芽生えたのでしょうか。

 

 “社会のためになる人間になれ”とは親にずっと言われていました。はじめに世界に目が開いたのは小学生のときですね。ロシアのウラジオストクへ渡航したことがきっかけです。おそらくその時も親が、グローバルに活躍する人間に育ってほしいと願って行かせてくれたのだと思います。ロシアは衝撃的で、まったく異次元の世界に来たような感覚でした。トイレに辞書が置いてあったことは今でも鮮明に記憶しています。トイレットペーパー代わりに古本が使われていて。ほかには森の中で自給自足の生活をしているご老人もいたり、日本では見たことの無いほどに、シンプルな暮らしをしていたことが印象的でした。

 異国を肌で感じて帰国。次の学年のときにユニセフ募金の広報をする機会があり“一円でどれくらいの人の命を救えるか”などを調べたことを通じて、わたしが暮らしているところとは全く違う世界にいる人達のためになることが、親の言っている“社会貢献”なのかな、と漠然と頭の中で考えていました。

 

―――留学で得たものとは。

 

 School of Oriental and African Studies (SOAS), University of London(ロンドン大学連合・東洋・アフリカ学院)へ留学していたのですが、貧困にあえぎながらもトップ成績を獲得してきた友人、政治的混乱の最中で今まさに身近な人たちがデモに関わっているという友人などに囲まれました。世界の情勢をビビットに感じるとともに自分はすごく甘いなと感じました。彼らは極めて具体的に“自分の国をこうしていかなければならない”というビジョンを描いていました。さらにそのビジョンは本に書いてあることではなく彼ら自身の実体験に裏打ちされていたんです。

 圧倒的に、彼らには自分が母国をどうにかしていくのだという意識がありました。それはちょっとした、何気ない日常生活の一コマでもわかることでした。政治的な議論が頻繁に起き、外交問題に関しても自分の意見を述べる必要が出てくる。日本人の私はよく韓国や中国の友人たちと議論していましたが、そこでは認識の違いに気づかされました。

 

―――認識の違いはなぜ生まれると思いますか。

 

 自国と、世界的に流通しているメディアの視点のみを持っているから、という理由は一つにあると思います。自分の視点を “多義的、多面的にしたい”とおもいつつも、全然出来ていない。例えば中国と日本の間で起きている問題について、日本人の私は日本のメディアや欧米のメジャーな“記事を把握しているけれど、中国のメディアや中国人のジャーナリストが中国語または英語で執筆している記事は把握できていない。

 問題の当事者のうち、本当の意味での“相手側の視点”がお互いに理解できていない。もっと踏み込んで相手の方にいかないとわからないことが多くて誤解が深まる。当たり前の事かもしれないけれど、自分に欠けている視点に実際の議論を通じて気付く“ショック”は、留学の収穫の1つと言えるかもしれません

 

Zhen An Tongによるタグ付け

 

国連視察団としてジュネーブを訪問 関心が“規範作り”から“市民運動”へ

 

 さらに留学中はジュネーブへ。クラスのスタディーツアーでWTO、UNHCRをはじめ国際機関で働く方にお話を伺いました。クラスには“第三世界”出身の学生が多く、彼らは自国の現状を訴えて、国連に不足していると考えていることについて積極的に発言していました。しかし、これには “国連としては世界全体として物事をみないといけないから…”という返答が続きました。「それは確かに改善したい。けれど、現状はこの部分しか出来ない」でもなく、「そうはいっても、僕たちは世界全体を見ているからこれをやっているんだよ」という感じ。私が接触したのは国連職員のほんの一部なのでしょうけれど、少なくとも彼らからは、圧倒的な“共感”は見受けられず、その“アパシー”といえるような姿勢が脳裏から拭いきれませんでした。ただ、(第三世界の)彼らが訴えている状況に、まだあまり踏み込んで理解できていないのは、わたしも同じ。また自分は甘い、と痛感しました。

 ジュネーブ本部への視察を機に、国や国際機関などの大きな組織による“規範づくり”以外の動きに、これまでより目を向けるようになりました。「個人」や「市民社会」だったら、どんなインパクトをおこせるのだろうと。同時期にインターネットやSNSなどの新しいツールを通じた社会運動が当時実際に起きてきたのを見て、個々人の力がすごく強くなっていると感じ始めました。個々人が自ら国をこうしたいとか、もっと小さくても、町をおこしたいとか、想いを持って変えていくような世界観に魅了され、帰国後の進路にも大きく影響しました。

 

日比SOAS UN study tour

 

―――留学によって貴重な知見が得られた。だから同じことを自分だけではなく他の人にも経験してほしいと思い「留リノ」を始めたのでしょうか。

 

 もちろん自分が価値を理解しているから、という理由もありますが、もっと便利に留学へのステップを踏める場所が必要だとおもったからでもあります。今の留学エージェントはお金がかかる所が多い。だから無料で、留学に関する相談を気軽にできないかな、と思ったんです。留学先の日本人OBOGは絶対にたくさんいるはずなのにストレートにアクセス出来ない。それってすごくもったいないじゃないですか。

 

―――「留リノ」を通じて出逢う人たちとはどのような関係を築きたいですか。

 

 いままで出逢った人には、留学に行ってもなお漠然と不安を抱えて、目的意識を抱かずにいる人も多い。これってある意味日本に特有で。海外の学生も不安要素は一緒なはずなのに日本人だけ何に向かっているか明確に発言できない印象を受けます。例えば留学先で出逢ったスペインの学生は、国に帰っても職が無い状態でした。それでも“自分はこれがやりたい”と明確に話していました。彼らのように日本の学生も等身大の自分の夢を語れるようになったら素敵なのにと思いました。

 迷っている人を“助ける”なんて意識はなくて。出逢った人が“何をしてワクワクするか”“何をしたいか”自信を持って言えるような雰囲気を大事にしたい。いったん周囲の目は気にせず“こんな風なことをやりたい”と正直に言い合える。「常識」から考えたら無謀だったり無茶だったりしても、それでもいいから挑戦してみなよ、ってお互いが信頼して支え合えるようになれたら、と思っています。

 

―――2016年はアメリカ大使館と協働すると伺いました。これから活動の場を広げていくのでしょうか。

 

 アメリカ大使館とは高校生に向けての出張授業を一緒に行う予定です。これまで築いてきた留学経験者との繋がりをこのような形で活かすことができて非常に嬉しいです。今後は、定期イベントの開催や、気軽に相談できるチャットサービスの開設を予定しています。

 今年は一つ一つ、受け持つ企画ごとにきちんと結果を出していくことを目標としています。留学というキーワードを通して多くの人をつないでいきたいですね。

 

―――ありがとうございました。

 

(取材・文 北原梨津子 写真 日比さん提供)

 

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