留学を機に個人を基軸とした活動に関心をもったという日比朝子さん。帰国後、民間企業(株式会社ガイアックス)のインターン生として、同社の新規事業『TABICA』に携わる。『TABICA』は関東圏を拠点とした旅をマッチングする(旅人とそのホストを繋ぐ)ITプラットフォームだが、日比さんはさらに、関東圏外(現在は群馬、北海道、青森)でのプロジェクト企画・運営を行う団体『Rope,』を有志で創設した。
「田舎の古民家で一緒にご飯をつくってたべる。はじめは知らない者同士でも、家族のように仲良くなって、“会いたい人”を訪ねる旅が増えていく。そして日本に新しい関係性が構築されていく。」
“旅”が秘める可能性をこのように語る日比さんへ、旅をキーワードとする現在の活動への想い、醍醐味、そして今後の展望について伺った。
―――どのような旅をつくろうとしていますか。
“人と人を繋ぐ”ことを大切にする旅です。予めパッケージされたツアーで物理的に名所を移動するのではなく、参加した人同士が、旅のなかの企画を楽しむ。そこに生活している人の”暮らし”を体験し、一緒に旅を創るプロセスを通じて人と人がゆるく繋がっていくことに主眼が置かれています。
旅の企画は、『TABICA』では、農業体験・食づくり・モノ作りを中心としています。一方、『Rope,』の方は、お祭り・古民家再生と、色々試行錯誤しているところなので内容は今後も変わっていくと思いますし、旅人によって変わってもいいなと思っています。最近『Rope,』では“服飾で何かしたい”という人がジョインしてくれて。昔おじいちゃんおばあちゃんが着ていたのをリメイクして、若者でも着る事ができるように売り出すことも準備しているところです。これを通じて新しく“服を通じて人を繋ぐ”ことができないか模索しているところです。
―――では、“人と人が繋がる”価値とは。
自分の世界が固まってしまうと、そこが苦しい場所でも留まらないといけない。この点、安心できる場所が増えたら、つらい時に逃げる場所ができるところに、価値があるのではないかと思います。
あまり話したくないことですが、私には「高校」が居辛い場所だった時期があります。留学したために学年が一つ下がって、帰国後入ったクラスのみんなが私にだけ敬語を使ったんです。それまで一匹狼で人に好かれることに一生懸命ではなかったのですが、留学を機に親しみやすくなるよう工夫するように変わりました。「ピエロ期間」と呼んでいる私の人生のターニングポイントは有意義だったともいえる一方、当時初めて孤立した状態に戸惑い、他に逃げ場がなくどこか無理をしていた自分がいました。
だから一つのコミュニティに閉じこもるのではなく、他のコミュニティにいる人とも繋がることができたら幸せだ、と思う様になりました。さらにシンプルにいまの私は“いつも人と一緒にいたい”そして“実は他にもっと同じ気持ちの人がいる”という感情に突き動かされているのかもしれません。活動で出逢った人から「久しぶりに、良い出逢いだったよ」という声を、イキイキとした表情と共に頂けたら、“よっしゃ”とガッツポーズしたくなるほど嬉しくなりますね。
出逢った人への思いやりは 助け合える社会の種になる
―――いわゆる「地域活性化」や「地方創生」が目的なのかと思っていました。意識はされていないですか。
もっとミクロになら意識していると思います。いま自分の中では、たとえば群馬といえば『Rope,』の活動で訪れた神流町の情景がイメージされて。さらにそこで出逢ったおばあちゃんが想起されます。「地方」という枠や「創生」という概念よりも、出逢った“人”に強いつながりを感じています。あの時一緒にごはんを作ったおばあちゃんに、もし何かがあれば大丈夫かと心配になる。助けにいく。そういう家族のような関係性が日本の津々浦々で紡がれたら、きっと日本がより助け合える社会になると思うんです。
―――なぜ『Rope,』も立ち上げたのでしょうか。地方の田舎をスコープとした理由を教えて下さい。
『TABICA』は、ITプラットフォームなので、地域の暮らしにどっぶりと入り込むわけではありませんでした。だから、『Rope,』を創り、その活動を通じて地方へも足を運びたかったんです。田舎に住んでいる人々の繋がりの強さ、政治一つとっても町が分断されかねない脆弱さ、収入源の一次産業への偏重などをふくめて、長年自分の関心領域でもあった、海外の発展途上国と似ているところも多いです。だから『Rope,』を通じて、普遍的なことが観察される予感がしています。
理想は“人に会いに行く旅”
―――これから、どんな旅にしていきたいですか。
会いたい人がいるから足を運ぶ旅ですね。
『TABICA』では、そんな旅にしていくために、今後日本の各地で営まれている農業やモノづくりに、“こだわり”や“愛情”をもった人ともっと出逢っていきたいです。現在の活動では「キムチづくり」や「味噌づくり」など何処でもできる活動になっているのですが、今後は“ここでしか出来ない”面白さや“この人にしか出せない”味を含んだ旅を突き詰めていきたいですね。さらに言えば、農業やモノづくりにおいてプロフェッショナルでありながらも、どこか懐かい近しい感じの人を旅人と繋げたいという構想があります。
―――ありがとうございました。
(取材・文 北原梨津子 写真 日比さん提供)
【日比朝子さんインタビュー】