16日、参議院特別委員会の総括質疑を目前に、東京大学駒場キャンパスで「東京大学人緊急抗議集会」が開かれた。安保法案東京大学人緊急抗議集会・アピール実行委員会が主催する、第三回の会議となった。主催者発表によると、今回の集会で180人が集まり、これまでにアピールに賛同した人は957人に上った。
冒頭で、まず二人の学者がスピーチを行った。宗教学が専門の島薗進・東京大学名誉教授は、「非常に無残なことをやろうとしている。いのちが脅かされているように感じる」と危機感を表した。そのうえで、「この感覚はまだ長く続くと思うが、それにどう向き合っていくかというあり方も、我々は学びつつある」と今後の展開への期待もにじませた。
アメリカ政治外交史が専門の西崎文子教授は、「国会の審議は、この法案が危険であり、粗悪であり、そして違憲であることを明らかにしてきた」と話し、「軍備増強や同盟強化が軍拡競争を招き、いたずらに緊張を高める可能性がある、という安全保障のジレンマの側面が無視されている」と指摘した。
「どう考えても違憲」
続いて、法学部卒業で2001年から2006年まで最高裁判事を務めた濱田邦夫弁護士が登壇し、次のように話した。「政府は、砂川判決と昭和47年の政府見解を、今回の立法が憲法の枠内である根拠としているが、それを最初に問題にしたのは日弁連だ」「これは政治的というより社会問題であり、なぜ弁護士という職業があるのかの大前提が崩れるくらいの状況で、発言せざるを得ない」
さらに「もし安保法案が廃案にならなかったとして、最高裁で違憲判決は出そうか」という質問に対して、「OBがどうこう言う筋合いのものではないが、今回の場合は、どう考えても違憲だ。違憲判決が出ない判断はおかしい。だが、最高裁の判決が出るまで3年か4年かかるので、その前に我々が政権を覆すことで、まともな内閣に戻すという選択が一番プラクティカルだ」と答えた。
次に、前回の集会に続いて登壇した学生は「たとえ今日負けたとしても、普通の大学生たちが自分の言葉を紡いで、日本の将来を考えられて当然だという認識を作りだせるのなら、民主主義の再構築の第一歩だ」と話した。
そして「僕は、思考することの少ない、デモというものがあまり好きではありませんでした。しかし、考えることだけが人間の営みではありません。政治が必ずしもロジックに基づかなくなった現状において、思考力も行動力も、ともに大切なのです。みなさん、一人の市民として、やれることはやっていきましょう」と、国会前デモへの参加を呼びかけた。
「憲法は私たちが直せばいい」
最後に、集会の呼びかけ人で、社会学が専門の市野川容孝教授が、次のように述べた。「ナチが政権を取ったあと、ドイツの社会学者の三分の二が亡命した。社会学は社会についての学問だが、学問を許容してくれる社会の中でしか生きられない。社会学だけではなく、学問はおよそ皆そうだと思う」
「明日か明後日、憲法は部分的に壊されると思う。だが壊れたとしても、憲法は私たちが直せばいい。その方法としては、選挙や違憲立法を審査するなどいろいろある。壊された憲法を、私達でどうやって直すかが次の課題になる」
集会後、主催者の一人で理科一類の小泉伊知朗さんは、集会の狙いについて、「来年の参院選から18歳選挙権が実施される中で、我々が政治的に中立でいられるとは言えない。政権に対して反対の声を叩きつけるということもあるが、それと同時に、学生たちに発言している人を見て、何かしら考えてほしい」と話した。
「東大生に対して何かメッセージはあるか」という記者の質問に対して、小泉さんは「学費が高い、大学に下ろされる金が減ってきているなど、何でもいいので、政治的な問題や社会問題について考えてほしい、判断を下してほしい」と語気を強めた。
集会を終えた参加者たちは、雨の中、国会前を目指して会場を発っていった。今後、どのような集会が開かれるかは未定だが、東大生や東大教員が政治に対し、どのような発言をするのか注目していきたい。
(文責 井手 佑翼)
2015. 9. 19 13:20 タイトルを「駒場で東京大学人緊急抗議集会」から変更いたしました。