大柳洸一さん(東北大学大学院博士課程)、齊藤栄治教授(工学系研究科)らはスピントロニクス材料としての利用が困難だと考えられていた常磁性絶縁体ガドリニウムガリウムガーネット(GGG)がスピン流を伝播する材料になり得ることを示した。成果は18日付の英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(電子版)に掲載された。スピントロニクス材料の選択肢が増え、新たな材料の開発が加速することが期待される。
電子の自転に由来する磁気の流れであるスピン流は次世代のエレクトロニクス素子への利用が期待されており、金属や磁石を使用した材料において活発な研究がされてきた。磁石の中でスピン流を伝播するにはスピンの向きが一方向にそろう、磁気秩序が生じる必要がある。スピンの向きがバラバラな状態を常磁性と呼び、特に電気を通さない常磁性絶縁体はスピン流の輸送は不可能とされていた。
大柳さんらは常磁性絶縁体内の微弱な原子磁石間の相互作用を利用することでスピン流を長距離に、同じ温度の磁石を用いた場合の8倍の効率で流せることを発見した。実験では物質内のスピンの力が大きいことで知られるGGGを使用。外部磁場によってGGGのスピンの方向を一部そろえることによって、原子磁石間に相互作用を発生させた。5K(零下268度)の低温で磁場をかけたところ、明瞭な起電力信号が確認され、100K(零下173度)という比較的高温でも長距離にわたるスピン流の伝播を確認することができた。
この記事は2019年10月29日号から転載したものです。本紙では他にもオリジナルの記事を公開しています。
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