東京帝国大学図書館 図書館システムと蔵書・部局・教員
河村俊太郎 著
東京大学出版会 2016年 6400円
ISBN978-4130036009
図書館。誰もが知っている施設であるわりに、意外とその実態および歴史は知られていなかったりもする。とくに本誌の読者では、東京大学の各図書館を日常的に使う方も多いだろうが、その歴史は果たしてどのようなものだろうか。
本書は、二〇一四年に東京大学大学院教育学研究科に提出された博士論文の出版であり、東京帝国大学図書館の実態と歴史を丹念に追ったものである。
東京帝国大学において図書館はどのような役割をはたしたのか。この目的の下に、本書は「東京帝国大学の教員の研究にとって大学図書館システム、特にその蔵書とはどのような存在であったか。」という問いを立て、一九〇〇年頃から一九四一年までの東京帝国大学図書館の実像に迫ろうとする野心作である。
東京帝国大学図書館というシステムを考える際に、大学の中央図書館としての東京帝国大学附属図書館と、各部局図書館の区分が導入される。これにより、中央と部局、という関係性の下で、知の基盤システムとしての図書館の実相の把握が可能になる。本書では、部局図書館の実際の分析例として、運営が分散的であった文学部心理学研究室図書室と逆に運営が集中化していた経済学部図書室の二例が分析される。
そして、ここからが本書の瞠目すべき点であるが、これらの図書館の蔵書を、当時の『図書原簿』を始めとした一次史料をもとに、計量化し再構成していく。
実際に行った作業を思うと、気の遠くなるような工程であっただろうと感じるが、果たしてそこから得られた結論は意外にも、東京帝国大学図書館という大仰な名前の割にあっけないものである。
つまり、中央図書館としての附属図書館は教員にとっては重要度の低い存在であり、部局図書館にしても蔵書構成としては専門性には対応せず、高度な専門書は教員が私蔵する、という学問が閉域化していった実態があばかれる。さらに、これは東京帝国大学自体が統一した理念を持たないまま運営されていたという歴史とつながり、各図書館が各々独自に展開する、という運営のカオスが存在したのであった。
得てして、歴史の実相は陳腐な側面を大いに有するが、本書もこれを証明することとなった。
とはいえ、本書は東京帝国大学図書館の実態を解明した労作であることに変わりはない。分厚い記述と、とくに蔵書分析を繰り広げる部分は圧巻であるので、是非手に取っていただきたい。
※この記事は「ほん」からの転載です。「ほん」は東大生協が発行する書評誌で、さまざまな分野を研究する東大大学院生たちが編集委員会として執筆・編集を行っています。年5回発行、東大書籍部等で無料配布中。
【いま東大生が「ほんき」に読むべき「ほん」】